凛太朗

カスパー・ハウザーの謎の凛太朗のレビュー・感想・評価

カスパー・ハウザーの謎(1974年製作の映画)
4.2
生まれてから16年間もの間、地下に幽閉されていたというカスパー・ハウザーの生涯を描いた伝記映画。
監督ベルナー・ヘルツォーク、主演はブルーノ・S。

これ実話ベースなんですけど、カスパー・ハウザーを演じているブルーノ・Sという人が虐待を受けて23年間もの間知的障害施設に収容され、ナチスの医療実験まで受けていたという人で、本物のカスパー・ハウザーを知らないんだけれど、どこからどう見てもブルーノ・S扮するカスパー・ハウザーが、どこからどう見てもカスパー・ハウザーなんですよ。
これは凄いことだと思うよ。実際のカスパー・ハウザーは16歳なので、少々歳をとりすぎてしまってますけど。

ヘルツォークは別に、19世紀ドイツ最大の謎とされるカスパー・ハウザーについての謎を解明しようとするようなミステリーをこの映画では描いていません。
描いているのは諸説あるカスパー・ハウザー自身の生涯と、カスパー・ハウザーを通しての社会や人々や神や宗教の在り方、存在意義であり、どちらかと言わなくても哲学的な映画だと思います。

子供以上にイノセント極まるカスパー・ハウザーにとって、善い人・悪い人に拘らず好奇の眼差しを向ける人々や社会は恐怖の対象なのか?
否。そもそも恐怖とかいう概念がないです。
しかし、教育を受け、言葉を理解し社会を知ることによって、自分が16年間を過ごした場所がどういう所で、今を過ごしてるのがどういう所なのかを知ることになった結果、カスパー・ハウザーにとって社会やそこで生きる大多数の人々(特に大人)っていうのは、余りにも汚れすぎているのかもしれない。

ヘルツォークは、カスパー・ハウザーを通して、当たり前だとされていることに疑問を投げかけ、思いっきり社会批判をしているように思いますね。
普通と思っているそれ、宗教やら価値観なら当たり前じゃねーからな!みたいな感じで、人間を愚かに描いてる節すらある。意味ねーから。みたいな。濃霧の山の心象風景とかね。
その意味のない物事に意味を見出そうともせず、ただ流れに流される人々であったりそのような社会性を嘆いているんだと思う。

はい。ドイツの風景からカスパー・ハウザーの心象風景による自然の偉大さ、力強さに至るまで映像がまず素晴らしい。
そして、パッヘルベルの『カノン』、アルビノーニの『弦楽とオルガンのためのアダージョ ト短調』、モーツァルトの『魔笛』といったクラシック音楽も効果的で非常に良いです。
凛太朗

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