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カルメン故郷に帰るの教授のレビュー・感想・評価

カルメン故郷に帰る(1951年製作の映画)
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木下恵介監督の作品を、ポッドキャストで語るのを契機に鑑賞。

日本初のカラーフィルムでの映画ということで、まず画面の色調と迫力に圧倒される。
取るに足らないコメディ映画の一作という見方もできるほど、ライトな物語ながら「サウンド・オブ・ミュージック」ばりの画面づくりに「映画」を感じる。
ほぼほぼ全てのショットに、撮影の素晴らしさを感じる。

ストーリーもコメディとしての風合いの中に、しっかりと「都市と地方都市の断絶」に端を発する価値観の相違が生む、哀感が忍ばされている。

主人公のストリッパーであるカルメン(高峰秀子)自らの生き方を「芸術」と標榜している。
本編には描かれていないが、その豪放な振る舞いは「東京」でも浮いていることは仄めかされるし、舞台となる北軽井沢では当時の世相的にもどこか笑い物にされている。
ストリッパーという職業が「非芸術的」とは思わないが、少なくともカルメンの自意識に反して、彼女の想いは空回りしている。

そのハスッパな彼女の生き様が真っ向から「田舎の人たち」の価値観と衝突し、またバカにされるし、あるいは「性的」に消費されている構造を本作は描き出す。
一方で、寒村で、恐らく戦争で盲目となった春雄(佐野周二)の静かな暮らしの中で唱歌を作曲する寡黙な姿は「真の芸術のあり方」としてカルメンと対比される。

当時の戦中派の監督たちと同様に、この陽性な物語の中に、戦後の晴れやかな日本の姿に対しての批判的な見方や、分断や断絶の物語がさりげなく示されてより深みのある映画になっている点が興味深い。
どこか後年の「男はつらいよ」と同質の作劇でありつつ、ある種の女性の奔放な生き方への社会の側からの障壁や、内面の持つジレンマや空虚さを、後傾化してスマートに描く木下恵介監督の手腕は素晴らしい。
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