Siesta

ファミリー・ツリーのSiestaのネタバレレビュー・内容・結末

ファミリー・ツリー(2011年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

“大切なものはよく知らないまま手放してはならない”ということが妻との別れ、引き継いだ土地の売買を通して描かれていると感じた コメディタッチでもあるけれど、題材はシリアスこの上ない (元)妻に囚われた男という主人公像が「アバウトシュミット」、「サイドウェイ」、今作と立て続く監督の作家性も興味深い
冒頭、ジェットスキーに乗る妻の楽しそうな姿からの病院で治療を受けて寝たきりの姿の対比が容赦ない ハワイという悠久の癒しの地 そこでの緩やかな雰囲気とそこにまとわりつく日常 コミュニケーション不全だった妻、2人の娘 さらには娘に付き添う男 そして、この状況を複雑化させる妻の浮気の発覚 年末に長女と妻はそのことで喧嘩をして、仲違いをしたままだったと そこでもがく主人公たち まさに、“大切なものはよく知らないまま手放してはならない”と 妻の浮気相手の元へ向かい、妻が危篤であり、間もなく亡くなることを告げる それが復讐ではなく、知りたいからというのが良い 妻は浮気相手の彼を愛していて、夫とは別れようとしていたこと、でも浮気相手は本質的には彼女を愛してはいなかったと 少し作劇上の都合の良さもなくはないが、彼女もまた悲劇的で可哀想な人だったと分かっていく だからこそ、その後に浮気相手の妻が見舞いに来る ここも今作の白眉 普通なら復讐になるところ でも、主人公と同じく、浮気をされた側だけど、それが目的ではない 泣きながら憎しみと可哀想という2つの感情がせめぎ合うこのバランスが良い 人生を“そこ”で終わらせられてしまった当人とその周囲の人々のやり場のなさと報われなさ 娘に付き添う男も母を亡くしていて寂しさを分かち合うところが良い さらに、妻の浮気相手の妻が来た時にカフェに行こうと空気読むところも良い
また、妻の父である祖父からの「もっと幸せにしてやるべきだった」は堪える 終始、彼や孫にきつい言葉を投げ掛けるが、娘の姿と向き合う哀しみ、優しさ 表情、手、動作、キスから伝わる慈愛 ここを映像で見せてくるのが見事
そして、土地は売らない “大切なものは知らないまま手放してはならない”ということ 訴訟になれば家族の絆は深まると言いのける これは皮肉のようで彼の本心 妻とは争うことさえできなかったのだから 遂に訪れる妻との別れ さよなら、妻、友人、苦痛、喜びという語りかけに胸が締め付けられる その後は葬儀ではなく海への散骨のシーンというのも良い そこからの2人の娘とソファでボウルとタオルケットを共有しながらくつろぐ愛おしいラストが見事 また、要所に挿入されるハワイの海 妻を殺した海、子どもたちが遊ぶ海、妻が帰っていった海 生命の象徴として、ハワイの象徴として映画の空気を作り出している  完璧には分かり合えない、それでも分かり合おうとする過程で、一瞬の奇跡と不滅の平凡を獲得するという感じは「20 センチュリーウーマン」、「カモンカモン」といったマイクミルズとも重なるものを感じた 日本の作品では「永い言い訳」も想起する 個人的にこういう作品にめっぽう弱い
あと、独り身の男っていう部分もそうだけど、女性の浮気というか、女性の貞操観念の緩さが実はずっと描かれていて、ちょっとアレクサンダーペインのジェンダー観も感じなくはないんだよなぁ 性加害の告発を受けているみたいだけど、ちょっと分かるというか 真偽はまだ不明みたいだけど 映画も言い方変えれば、傲慢な男が割と都合良く許されていく話というか 同じくそういう騒動のあったデヴィッドOラッセルも似た雰囲気を感じるんだよなぁ バイアスが掛かっているだけかなぁ でも、アレクサンダーペインの作品は基本的にめちゃくちゃ好きだから難しい
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