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獅子王たちの夏の教授のレビュー・感想・評価

獅子王たちの夏(1991年製作の映画)
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「竜二」の金子正次脚本。非カタギの人間ドラマを恐ろしいほど繊細に、巧みに描いているこの脚本に惚れ惚れしてしまう。

同じ誕生日、同じ獅子座の2人の男。が冒頭「出会った」というわけでもないくらいにアッサリとやり取りをする以外に、彼らは対面することがない。という作劇の見事さ。
主人公2人が、まったく交差しないまま、哀川翔演じる勝と的場浩司演じる修の真逆の人生が描かれる。

ナンパ者、はぐれ者で基本的には「いい加減な」人間であるが故にヤクザになった勝と、義侠心故に、時代に折り合えず、それ故に裏切られるし、大切なものも傷つけてしまう修。

勝はやがて出世していく中で、義侠心が芽生えていく。片や、修は、一方通行な純粋さで破滅していく。どちらも幻影に囚われ彷徨い、最終的には同化していく破滅的な展開が実に味わい深い。

まさに尊厳のドラマ。対立するどちらか一方に絶対の正義や、揺るぎない信念が正当化されるわけでもなく、ただただ転げ落ちていく2人の若者の物語が切ない。
また…唐突に現れる「第3の男」の唐突な不気味さや、とにかくあちらこちらに張り巡らされた「ヤクザ者」の内面を感じさせる「描写」の数々が、とてもロマンティックですらある。

ただ…ちょっとゲスト的な出演陣がノイズになるところも多く、本編とのバランスを著しく欠いている点であったり、香坂みゆきの「爪を噛む癖」が強調され過ぎていたりと、演出自体が「クドい」点も散見されていて惜しい。
特に、ラストにおける童歌「あんたがたどこさ」の「余韻」とでも言いたい演出は、殴り込みの際のBGMで事足りるし、ラストは銃声なぞも入れずに名乗りだけで切ってしまった方が切れ味のあるラストになったと思うし、非常にもったいない。

ただ、青春映画としても、ヤクザ映画としても、その世界に生きるどうしようもなく粗雑に扱われる命に対して向き合った物語として傑作。
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