何から書いていいかわからないぐらい、泣いてしまった。
史実については観る前から調べていたし、さしてプロレスにも興味があるわけではないのだが、引き込まれてしまった。
とにかく目を覆うばかりの悲惨な物語。
「プロレス」に関わり合うというただ一点において本作で描かれる4人の兄弟たちと、そしてもちろんフリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)自身においてもあまりにも悲劇的で心の傷となってしまう悲しさ。
まず「家父長制」という価値観をフリッツにのみ悪役として印象づけるのは尚早というもの。
「告発型」の映画に辟易してきた気分が自分にもあるからこそ、時代であったり環境であったりも含めて「そういう生き方しかできなかった」というニュアンスはフリッツの人物造形の中にも含まれているので「毒親」という言葉で括りたくない。
そして、ケビン(ザック・エフロン)のカリスマ性に乏しく生真面目で誠実なキャラクター。デビッド(ハリス・ディキンソン)の天性のカリスマ性、ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)の寡黙な努力やマイク(スタンリー・シモンズ)の繊細過ぎる心などを端正に描き分けている脚本と演出のスマートさが見事。
唯一の「生き残り」であるケビンに取材し、肝となる「兄弟の絆」に着眼して兄弟の仲の良さ、大人(親)の介在しない友情を丹念に描くことで終盤に畳みかける悲劇がより一層の悲壮感を生み出している。
生真面目に物事を受け止めてしまうケビンの動揺が、度重なる兄弟たちの「死」に対してより一層悲しみを引き立てるキャラクターとドラマの動かし方と、それに応える演技陣の圧倒的な迫力で泣かずにはいられない。
ドラマ映画として、最良の脚本と的確過ぎる演出テクニックで過剰な煌びやかさがないところがとにかく素晴らしかった。