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東京原発のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

東京原発(2002年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

カリスマ都知事の「東京に原発を誘致する!」の一言に都庁はパニックに陥る。反対派と推進派が熱い議論を戦わせる。その頃、プルトニウム燃料を積んで福井へ向かうトラックが爆弾マニアの若者にハイジャックされた。爆弾とプルトニウムを積んだそのトラックが向かう先は、原発誘致問題で白熱する都庁だった…。

原子力発電所の抱える問題をブラック・ユーモアを交えて、痛烈に批判した社会派コメディの秀作である。
初見だが「こんなにタブーに切り込んだ映画があったのか?」という驚きが大きい。
公開時は笑えるエンタメ作品だったかもしれないが、残念ながら東日本大震災による福島原発事故をあった現在では笑うに笑えないため、深く考えてしまう。

カリスマ都知事の強引なリーダーシップに腰巾着のように賛成する役員、イヤイヤそんな簡単に決めるなよ、と遠慮がちに弱々しく反対する役員によって会議は難航する。
自分の立場を悪くすることなどせず、殿様都知事にハッキリと反対はしないのは、時代劇の封建制度のよう。
原発誘致はホントに良いことなのか?
見る者は良く分からぬ役人の目線を借りて、都知事の言い分と、専門家の大学教授の言い分から、原発の是非を学ぶことが出来る。

原発の建設と維持にかかるコストは、やはり廃棄物処理を含めて考慮すべきもの。
温室効果ガスの抑制だけで判断していいものではない。
この作品で特に期待されていた蓄電池や水素、再生可能エネルギーは2022年の今現在でも課題も多く、普及していない。
手っ取り早いのが原子力発電というのは、今も変わってはいない現実だ。
東日本大震災以降、誰しもが当然、原発には反対だろう。
しかし、東京のような大都市が、福島や新潟のような地方にリスクを背負わせているのは確かにおかしいこと。
電気の地産地消という考えには賛成だ。

都知事の真意は、東京に原発を誘致すれば当然反対されるが、そのことをキッカケとして原発に頼る国政を国民に知らしめ、危険な原発に頼る現実を考え直して欲しいと、敢えて自分が悪役になる政治改革。

日本の原発政策の問題点を解き明かしながら、日本政府と国民の無関心を批判するものとなっており、かなり鋭い「反原発映画」である。

本作の難点は、前半の討論劇の情報量が多すぎて、ちょっと飽きてくるところ。
演技派キャストのおかげでついて行くことは出来るが、劇中のほとんどが変わり映えの無い会議室で原発の話をするだけでなので、絵的な面白さがあまり無い。
また、一方で核燃料輸送トラックをジャックした少年によるテロ未遂事件を描くあたりは、少年の動機も背景も不明で荒唐無稽だ。
しかし、都知事のセリフにもある通り、「物事に絶対(安全)なんて無い」ということの痛烈な皮肉となる構成になっているのは巧い。

2004年の時点でこれだけ原発問題に切り込んだ映画があったことには、本当に驚かされる。
「すぐ人は忘れる」との都知事のセリフにもある通り、公開当時よりも福島の事故から年月を経た今だからこそ考えさせられるモノがある。

どうせ社会問題をやるなら、中途半端ではなく、これくらいはやってくれないと面白くない。
タブーに切り込みすぎたため、どうやら本作の監督は干されたようだ。
社会問題に真っ向から挑み、見事に娯楽作品に仕上げた監督の手腕は高く評価したい。
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