note

ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

2011年夏。間近に迫ったローマ法王の来訪に沸くスペイン、マドリード。市内のアパートで、一人暮らしの老女が殺害される。
現場に向かったのは、高い捜査能力を持ちながらコミュニケーション能力に難のあるベラルデと、直情的な性格から度々トラブルを起こす暴力刑事のアルファロ。始めは単純な強盗殺人事件かと思われたが…。

「連続老女強姦殺人事件」という、とんでもなく変態チックな副題に惹かれて鑑賞。
名作スリラー「セブン」の犯人ジョン・ドゥのような偏執的な殺人者と警察の対決か?と期待したが、舞台がラテンなスペインという土地柄のせいか、さほどダークではない。
面白いのは、知能は高いが吃音症の刑事と直情的な暴力刑事という、どちらもマイナス要素を持った刑事の異色の組み合わせ。
スペイン産のバディ刑事サスペンスの佳作である。

一見して弱い老人を狙った強盗の犯行だろうと周囲が推測する中、吃音の刑事ベラルデは被害者がレイプされていたことに気付く。
老女強姦殺人事件という、前代未聞の特殊事件に捜査は難航。
ほどなくして新たな被害者が出る。
しかし、ローマ法王の来訪を目前に醜聞を流したくない警察上層部は「老女レイプ」を隠蔽するよう捜査陣に命令を下す。
納得の行かないベラルデとコンビを組まされた暴力刑事アルファロは水面下で捜査を進めてゆくのだが…というお話。

物語は事件よりも2人の刑事のキャラクターを丁寧に描く。
この2人があまりにもダメ人間で、挫折を味わったことがある庶民なら共感を抱く作りであるのが面白い。

過去のトラウマから吃音になったらしいベラルデ。
几帳面な性格を表すかのように部屋は整理整頓が行き届き、生活感がない。
潔癖すぎて隙がなく、女を寄せつけぬ上、吃音のため女を口説けぬ寂しい独身。
ベラルデがいつもかけているレコードの曲に惹かれて清掃婦ロサリオが部屋を訪れるが、ベラルデは欲情して拒まれる。
警察官がレイプ未遂するなんてとんでもないポンコツだが、甘い言葉も思うように出ない長年に渡る彼の孤独を思うと、女性はブーイングだろうが、男性としては僅かながらに同情してしまう。

相棒となるアルファロはカッとなると抑えが効かないキレやすい刑事。
侮辱した同僚を失明するほど殴り、異常だと精神鑑定を受けて閑職に追いやられている。
事件のおかげで中々妻と娘の元に戻れないアルファロは欲求不満が溜まって、さらに暴力的に。
だが、その間に妻に浮気され、ショックで街を放浪し、餌をあげずに飼い犬を餓死させてしまうほどこちらもポンコツだ。

知能派と肉体派の刑事コンビと思いきや、どうしようもなく人としてダメなコンビ。
でもそこがどうも人間くさくて、というかダメ男くさくて、コンプライアンス全盛の今どきの映画とは一線を画す描写で、ある意味貴重。
マイナスとマイナスをかければプラスになると言わんばかりに事件への怒りを原動力に2人は次第に協力していく。

しかし、プロファイルで得た犯人像に近い容疑者を見つけ、アルファロは強引に追跡するが取り逃がしてしまい、上司は警察への苦情が殺到したことを理由にアルファロを解雇。
ベラルデも捜査から外される。
もう、ダメすぎて刑事ですらなくなる。

しかし、事件は止む気配がなく、現場警官に頼まれて2人は密かに捜査に協力する。
事件翌日、アルファロは仲間の協力を得て密かに殺害現場に立ち入り、独自に現場検証を開始するが、そこに現れた犯人に何とアルファロは殴り殺されてしまう。
肉体派刑事の本領を発揮できず、間抜けにも死んでしまう意外な展開。

犯人はそのまま逃走。
ベラルデはヨリを戻したロサリオと愛し合っている最中にアルファロの死を知る。
アルファロからの応援の着信があったことに後悔するベラルデ。
着信に気づかないベラルデもまた間抜けだ。

警察はアルファロの免職を取り消すことにし、ベラルデはアルファロの妻と娘から彼が現場で見つけたペンダントを受け取る。
このペンダントに教会の聖体拝領の日付があり、ベラルデは教会関係者の証言からこの日に聖体拝領を受けた犯人を突き止める。

ベラルデは警官隊を率いて犯人の家に突入するが、そこにあったのは犯人に殺害された母の死体。
犯人の姿はなく、アルファロの葬儀に参列したベラルデは必ず事件を解決すると静かに誓う。

それから3年後。
犯人は清掃業者に扮して逃亡を続けていた。
犯人の居場所を突き止めたベラルデは単身で彼の元に向かい、道案内を求める一般人に扮して犯人の車に乗り込む。
ベラルデは逃げようとする犯人を何度も殴りつけ、二度と人殺しをしないことを誓わせる。

刑事2人のキャラクターが執拗に描かれる分、捜査の展開の遅さや犯人像が弱いのが明らかに難点。

犯人の男は厳格な母親に恐らく女手一つで厳しく育てられ、その為老齢となった母親を偏愛する一方憎しみを抱き、犯行に及んだと言うのが真相。
どこかヒッチコックの名作「サイコ」のノーマン・ベイツを野に放って拗らせたようなマザコンのキャラクターなのだが、主人公刑事2人のポンコツキャラに比べるとどうもインパクトが弱い。
見た目もヒョロヒョロのどこにでもいそうな気弱そうな青年だし。

映画史上稀に見るポンコツな刑事コンビはある意味、一見の価値あり。
だが、正義感はしっかりとあり、ヒーロー的な存在となる刑事映画よりも人間くさく、そこがリアルだとも言える。

失敗ばかりでカタルシスはない。
普段何をやっても上手くいかないと自己肯定感の薄い人間なら、ダメ人間な刑事に共感できる作品である。
note

note