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クワイエット・ボーイのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

クワイエット・ボーイ(2015年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

村の大人たちが悪魔の格好をして、子ども達を驚かせる祭りの日。4歳のトマソは祭りを怖がって父マヌエルの側に行くが、酔っている父に邪険にされる。母リンダは精神的に薄弱なこともあり家で寝込んでいて、その後トマソは一人森の中へ入りこみ、行方知れずになってしまった…。

行方不明になった子どもが数年経って発見されるが、本当にその子なのか?とミステリーと見せかけて、実は…という、どんでん返し。
田舎町で淡々と物語が進行し、意外にも無情な結末が用意されているのは、どこか北欧サスペンスに近いノリ。
イタリア産サスペンスの佳作である。

事件から5年後。街の地下道で孤児の少年が保護される。
少年は何もしゃべらないが、年齢、身体的特徴から行方不明だったトマソではないかと連絡を受けたマヌエル。
DNA検査も合致し、事件を後悔しつづけていたマヌエルは息子だと信じるが、飼い犬が息子にだけ吠えたり、教会を嫌がり嘔吐するなど、奇妙な出来事に村人たちだけでなく、リンダと祖父ハンネスも少年を息子ではなく悪魔の子ではないかと疑う。
そして、恐怖を感じた村人やリンダ、祖父は態度をエスカレートさせていく…。

てっきり「オーメン」のような悪魔の子を巡るホラーか?と思って見ていたが、なかなか悪魔憑きとか神父とか宗教的な要素が出てこない。
警察がDNAも一致しているというし、一体行方不明の5年間にトマソに何があったのだろう?と想像していたら、実は「とっくに死んでいました」とネタバラシ。
終盤は行方不明だったトマソの意外な死の真相が明かされる。
オカルトホラーか?と見せかけてサスペンスだったというオチなのだが、これがなかなか胸糞な展開だった。

トマソをやたらと恐れる村の若者ディミトリを「何か知っている」と疑ったマヌエル。
ディミトリが話した真相では、5年前の祭りの夜、山小屋にいたディミトリ達若者のところに迷子のトンミが来た。
驚いて逃げ出したトンミを追いかけたディミトリは、誤ってトンミを倒してしまい彼が死んでしまったと勘違い。
ディミトリ達三人は森の中のトンミの遺体を見つけ、洞窟の中に隠したのだった。

しかし、森の中で倒れた後、トンミは生きており自力で自宅に戻った。
寝室で寝ているリンダに駆け寄ると、睡眠薬を飲んでいたリンダはトンミを静かにさせるために強く抱きしめて窒息死させてしまった。
それを知ったピエトロがトンミの遺体を森の中に戻したのであった。

さらにリンダの浮気相手である警官ハンネスは彼女のためを思って、DNA解析の証拠を改ざんし、別人の少年をトンミとしてリンダの元へ送った。

ピエトロはトンミではなかった少年を井戸に突き落とすが、「この子には罪はない」とマヌエルが救助し助ける。
リンダ、ピエトロ、ハンネスともに逮捕され、全て解決した後、マヌエルは少年と一緒に暮らすことを決意する。

少年の正体は分からずじまいで、「結局お前、誰やねん?」とモヤモヤするのが難点だが、自分の子だとずっと信じてきたマヌエルと心通わせていたお陰で、恐らくホームレスの孤児で行き場のない子どもが救われるハッピーエンド。

この作品で一番可哀想なのは、父マヌエル。
ほんの一度の不注意で、息子も妻の愛も失ってしまった不幸な男である。
最初の祭りの時はフサフサのロン毛だったのに、罪の意識に苛まれて5年の間に禿げ上がり(俳優さんのカツラだが)、妻の信用も失い、一緒にベッドにも寝かせてもらえないセックスレス状態。
かつてはロクデナシだったようだが、改心して真面目に働いているにも関わらず、妻は警官に寝取られていて、それを薄々知りながらも今までの罪滅ぼしとトマソとしてやってきた少年を甲斐甲斐しく世話をする。
結局、愛してきた妻が息子を殺した犯人だと知るのは相当なショックだろう。
マヌエルにとって非常に胸糞な真相である。
吠え続けられたからと飼い犬をナイフで殺す子どもとこれから幸せに暮らせるのか?というのも疑問だが、世の中に捨てられた者同士、達者で暮らせと思ってしまう。

見終わって最も悪人に思えるのは妻のリンダで「夫には私しかいない」と可愛いそうだから離婚しない情けを見せながら、警官と浮気する流される女。
近年、強い自立した女性が良く描かれる中でズルズルと流される優柔不断な女というのも、舞台が住民みんな知り合いだろう辺鄙な片田舎だけに「世間体を気にするそんな女いるかも」と妙に生々しい。
真相を知っていたにも関わらず、マヌエルを騙し通してきた祖父ピエトロもかなりの役者だ。

全くもってホラーではないが、とにかく上手いこと騙された良く出来た脚本である。
耐え続ける駄目な夫に「可哀想に」と男としては共感してしまう作品である。
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