クレミ

恐怖分子のクレミのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.1
皆孤独な群像劇。
86年の作品だそうだけど、現代の人間模様に当てはめても何ら違和感無い。ここに出てくる人物たちの脆く繊細な性質が表れているかのような、美しい色合いと空気感の作風が素晴らしくて、目が離せなかった。

しかし、エドワードヤンが映し出す世界の鋭さったら…。壁一面の写真ももちろん、暗室の赤の中でのキスとか、彼女と喧嘩するシーンとかもすごく良い。演者が急にカメラ目線になるところとかドキッとした。何気無いシーンをドラマティックに映してしまう。天才的。
基本的に色味を抑えた画面なんだけど、だからこそ鮮やかな色がより強調され、あやうく見える。
風に揺らぐカーテンや写真が、人物の不安や、そのシーンに漂っている不穏さを表しているように思う。

信用してるというより無関心、かぁ。
日常の中のほんの僅かなズレが、少しずつ絡まりあって、広がっていく。皆孤独で、それでも愛しているし愛されたいし繋がりたくて、少し自分勝手で、互いに理解し合おうとはしない。そもそも人の感情なんて理解できるものでもないしね。狂気や恐怖は、日常の中に常に潜んでる。
ラストの突き放し方が、より一層それを強めている気がします。

めっちゃ良かった。
クレミ

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