このレビューはネタバレを含みます
「これは、裁判ではない」
強い信念や思想が特段無く、不安定で揺らぎやすく時に不誠実なオッペンハイマーが、頑なに水爆の開発に反対していたことの意味を考えさせられる。
どれだけ正確に理論立てたところで、連鎖反応を起こして世界を焼き尽くす可能性は"ニア"ゼロ。この世は不確かだ。オッペンハイマーが変えた世界に、連鎖反応が起こった世界に自分たちは生きている。「世界を変えたのだ」とオッペンハイマーが真っ直ぐに見つめるその世界=画面の向こうに、今も自分たちは生きている。
神の火を人類に与え、争いをもたらしたことでゼウスに罰せられたプロメテウス=オッペンハイマー。神の力≒核兵器は人類の進化とともにいずれは生まれたものだと考えたときに、この映画は「それらに関わってきたオッペンハイマーや当時の関係者たち、そしてその後の時代を生きてきた人類たちがどう感じ、どう考え、どう向き合ってきたのか」という言いようのない心象を、十分に体感できる作品だったんじゃないかと思う。
この国に生まれた者だからこその前評判があることは仕方がないと思いつつ、IMAXレーザーと凄まじい音響による没入感がなければ感じられないものもかなりあるなと思ったので、無事にスクリーンで見ることができて良かった。ノーランの映画体験はいつだって新しい感情の起伏をもたらしてくれる。