へいゆ

ロスト・イン・トランスレーションのへいゆのレビュー・感想・評価

5.0
大学生のときに劇場で観て以来トップクラスに好きな映画で10回以上観てる。ふと観たくなって今また観た。

公開2003年。当時自分は都心にある、リア充がたくさんいる大学の学生で、実家の千葉から通っていた。東京の空気に慣れきれていなくて毎日楽しいんだけど無理して周りに合わせたり友だちもいたけれど心の底は孤独を感じていた。
そんなときに観たこの映画は、東京という空間にある孤独さや上っ面でしかコミュニケーションとらないとかネガティブな側面を、ふたりの外国人というアウェイを主人公にすることでうまく表現していて、当時の自分と完全にシンクロしていた。
人がたくさんいるのに孤独が消えない東京の異常さを見事に現していて、劇場でひどく感動したのを鮮明に覚えている。

都市社会学を勉強していたこともあり、研究材料としても深く楽しませてくれた映画。

とにかくビルマーレイとスカーレットヨハンソンの距離感がうずうずしちゃうくらい絶妙で一期一会の儚さ、プラトニックラブな雰囲気が物語が進むにつれて増大して、観賞後なんとも言えぬ気持ちになる。
最初に出会うホテルのエレベーター内のお互いの軽いアイコンタクトから徐々に関係が近づいていく過程が最高なの。バーで飲む、遊びに行く、タクシーに乗る、部屋で飲む、部屋のベッドで語り合う、語り合う最中に足を触る、帰国前日の夜のバーでの見つめあいの距離感、そして街中で抱きしめ合ってキスして別れるまで。たった数日なのに、いや数日だからこその心の距離感が、東京の淡白さや人への無関心さと相まってすごく切ない気持ちにさせる。
お互いに結婚しているし、愛とか好きとかとも違う、でもすごく強力に心が繋がっている関係になっている気がして、こういう関係性を当時大学生の自分は誰かに対して求めていたのではないかと思う。居場所がないふたりの、東京におけるお互いの拠り所だったんだよね。東京だからこそこんなに近づいたんだよね。ある種東京の特徴をよく表しているということなのだと思っている。

当時の渋谷や新宿をはじめ東京の様子がリアルに記録されており、東京を振り返る素材としても貴重。

そしてソフィアコッポラ演出のカメラワークが東京描写をより魅力的にしている。ネオンと重なる表情やピントずらし、ホテル部屋から街を見下ろすカットなどすべての映像が美しいの。
音楽もセンス良く、粗がない映画でほんとに好き。
書いていて思ったのだけれどこの映画が自分のセンススタンダードになっちゃってるのかもしれない。

盛り上がりなく淡々と進む映画だけれど
・東京で孤独を感じることがある人
・プラトニックラブな物語に触れたい人
にはぜひ観てほしい。

ダイヤモンドユカイ、藤井隆、HIROMIX、藤原ヒロシなども出演してて探すのも楽しいよ。
へいゆ

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