千年女優

切腹の千年女優のレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
5.0
江戸幕府創立で戦国の動乱終りし寛永七年、食い詰め浪人が武家屋敷を訪ねて切腹を申し出ては扱いに窮した当主から金品を賜る狂言が蔓延る中、井伊家に切腹を申し出た老浪人の津雲半四郎。当家家老でそれを良しとせず切腹を求める斎藤勘解由が半年前に同様に訪れた千々岩求女の話をすることで浮き彫りになる因縁を描く時代劇映画です。

1941年に松竹大船撮影所に入社して戦後から監督を担い五味川純平の反戦小説を原作とする『人間の條件』が高評価された小林正樹が滝口康彦の『異聞浪人記』を映画化した1962年公開作品で、仲代達矢の鬼気迫る演技を三國連太郎らが支える物語が国内各賞のみならずカンヌ国際映画祭でも称賛されて時代劇映画の代表作の一つとなりました。

演技に演出、映像とそのどれもに隙がなく、武士道の虚飾を暴き出す物語には真に迫った凄みをはらんでいます。人類社会があり続ける以上は避けては通ることのできないパラダイムシフトが及ぼす個人への影響を多角的に捉えた残酷な物語はサスペンスに満ち満ちていて、いつの世でも変わらぬ零れ落ちた者の魂の咆哮に唸らされる一作です。
千年女優

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