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クローズ・アップのENDOのレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
4.2
サブジアンがバスの中で小さな嘘をついた時、彼の中のオルター・エゴが蠢動する。

すごく説明しにくいけれど、イラン人の心の広さがわかる映画。実際に詐欺にあった被害者家族とその犯人が自分たちで再現VTRを撮るからだ。普通じゃない。

そこに実際の裁判のシーンが挿入される。自供で語られるサブジアンの本音が突き刺さる。貧困により離婚の憂き目にあい人生に絶望したのだが、バスの中である裕福なアハンカハー家の女性に会うことで、もう1人の別人(イランの有名な監督であるモフセン・マフマルバフ)を演じる快感に目覚めていく。承認欲求を満たされ、嘘がバレていながらも再び、家族の元に行ってしまう心理。空虚な嘘。最後に彼は映画に関わるなら監督ではなく俳優がいいと言う。作られた場面も、ドキュメンタリーの場面の境界は曖昧になる。

冒頭の取材する記者と、警察官2人が詐欺の犯人を捕らえに行くのだが、なぜかタクシーで現場へ。記者が出て行くと、始まる会話は素なのか?次にキアロスタミ本人が拘留中の犯人に会い、判事に裁判を早めるように伝え撮影の許可もちゃっかり取る。
この異常に冷めた視点から、取材したジャーナリストよりもさらに遠くから事を見つめる。

最後に本物のマフマルバフが裁判所の前で待ち伏せしていて、サブジアンをバイクの後ろに乗せて走るシーンが劇的。音の断絶。花を持ってアハンカハー家に謝罪しに行く。そこで流されたサブジアンの涙は本物だったのか?演技ではないのか?いじわるなキアロスタミ監督でした。
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