午後

アラバマ物語の午後のレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
4.5
狂犬病の犬は射殺され、作物や畑を荒らさず美しい声で唄うつぐみは撃たれない。そして原題は直訳すると「マネシツグミを殺すこと」。
今まで観たグレゴリー・ペックの中で一番格好良い。白黒はっきりできないものや、割り切れないものに対して、無理に答えを捻り出そうとせず、子供たちにも押しつけないところに知性を感じる。そして子供たちは何よりも親の姿を見て育っていく。
子供たちの目線で見る世界の理不尽、平等ではない世界。自分の知らない病気を持っていたり、生まれ育ちが違ったり、生活習慣が異なったり。自分とは違う人がいるという事実は、子どもの頃はよくわかっていなかった。また、子どもたちの何でも遊びに変えてしまう瑞々しさや、今では何とも思わないような、夜の暗さや不審な物音に対する敏感な恐怖心が鮮明に描かれていて、久しぶりに子どもの頃の肌感覚を思い出した。元気いっぱいのスカウトと、なんだかんだ言って妹思いで優しいジェムの兄弟がとても可愛い。
気は優しくて力持ち、善良なトム・ロビンソンに被せられる、無知で嘘つきで粗野な黒人という差別感情。しかしもしも彼が乱暴だったら?ロバート・デュバルの存在が、さらに物語を重層化している。もしも彼が、噂通りの人物だったとしたら?
僕が対人援助の仕事をしていて最初に気づいたことは、支援が必要な社会的弱者は、必ずしも弱者の顔をしていない。善良でかわいそうな、助けが必要な人たちという役割を、無意識のうちに相手に期待している自分に気がついた。美しい声で唄うつぐみでなかったら、人を襲いかねない狂犬ならば、射殺するのが正義なのか?
陪審員制度や裁判の信頼性や客観的妥当性についても疑問は残る。人が人を裁くということの不可能性、功利主義的な発想の正義が内包する危うさについて考え込んでしまう。
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