OASIS

サウダーヂのOASISのレビュー・感想・評価

サウダーヂ(2011年製作の映画)
3.9
不況にあえぐ地方都市で暮らす人々の日常をリアルに描き出した映画。

奥さんがいながらもホステスに熱をあげる土方の男やヒップホップグループのメンバーとして活動しながら建築現場で働く若者も居れば、団地で暮らす日系ブラジル人達や出稼ぎに来たタイ人も居て、およそ掃き溜めのような希望も何も無い町。
そこへさらに、ワーキング・プア問題や不法移民・労働者問題、政治とカネの問題や老後の問題などの現代におけるありとあらゆる社会問題が土砂のように押し寄せ山積する。
もはや何が日常で何が問題かの区別すらつかない闇鍋状態であり、誰がどうしたって解決の糸口すら見出せない終末感すら漂う町を屋上から眺めたビンがぽつりと呟く「この町はもう終わりだな〜」という言葉が行き着く未来を物語っていた。

ラッパーの若者は「消費税、住民税、税税税って喘息かよ」など国民や政府、果ては日本までディスるのだが、ディスるだけディスり「俺ぜってー日本変えてやる」というビッグマウスを吐きながらもその実は建築現場のバイトという身の丈が合わない感じが最初は苛々させられるのだが、後半になるにつれて愛さずにはいられないキャラクターとなった。
愚痴を撒き散らしながらやがてそれがリズムを刻み、リリックが産まれラップへと昇華して行く瞬間を捉えた商店街の長回しのシーンには感動すら覚えた。

ラップなんて全然詳しくは無いし、実際の所彼の技術が上手いか下手かなんていうのは分からないが、たぶんラップの良い所は今感じているものをそのまま口に出すというシンプルながらも力強い点にあるんだろう。
愚痴や妬み嫉みといった反発的精神が大きな原動力となっている訳で、そういう面ではブラジル人などの虐げられてきた黒人達にかなうはずも無く、日本でありながらも完全アウェイ状態なラップバトルシーンは敗色が濃厚過ぎて見るも無惨だった。

エステティシャンとして働く土木作業員の妻は、客に招待されたパーティで知り合った政治家の後援者になったり、胡散臭さMAXな「日輪水」の虜になったり、夫がホステスやマリファナにハマったりと不幸のトリプル役満状態なのだが、終始テンション高めのべしゃりなのでかえってそれが不憫で見ているのが辛かった。
最初はそれが救いの無い話の緩衝材的な役割を果たしていたが、段々とホラー的な恐怖を感じるようになっていって、全然映画のテイストは違うが「さんかく」の田畑智子のような狂気染みた演技に見える事もしばしばあった。

役者陣はたぶん無名のキャストだらけなのだが、そのド素人感満載な演技が半端ない生々しさを放ち、そこから繰り出される独特の間が妙に笑えたりして演技なのか素なのかが時々分からなくなる。
ブラジル人家族の食事風景とか、デイサービスのおばあちゃんの会話とか明らかに演技指導なんてされていないであろうキャラクターが見事に計算されたような台詞を吐いたりするので余計に信じられなくなるというか。
常に鼻にかかった声で神経を逆撫でするエステティシャンの奥さんといい、前科持ちでありながら地元で一旗あげようとする女まひろちゃんといい、良くここまで現実感のある人達を揃えたなぁと感心した。

約3時間という上映時間は、2時間を越えた辺りからドラマの行き着く先が全く見えて来ない為どうしても長さを感じてしまった。
介護問題や移民問題は問題として出しておきながらそこからは深く踏み込もうとはしないようなスタンスで、色んなメッセージを詰め込もうとして真に伝えたい物が埋れてしまっている感じは否めない。
ただ、主観視点で商店街をぐるりと一回りするシーンや、ネオンや爆音で煩過ぎる通りを抜けるとその先で不意に真っ暗闇に包まれるシーンなど、何処へ行っても抜け出せず結局戻って来るしか無いという狭小で閉塞的な世界と、そんな町にさえ感じざるをえない切ない郷愁(サウダージ)は伝わって来た。

@京都文化博物館フィルムシアター
OASIS

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