三樹夫

黒い画集 あるサラリーマンの証言の三樹夫のレビュー・感想・評価

3.8
原作マツキヨ、脚本はしし、監督堀川弘通の中年オヤジが不倫してたらあれよあれよという間に地獄行きになるジャパニーズ不倫映画の代表作。不倫文学の大家マツキヨの不倫ファンタジーと不倫ナイトメアの詰め合わせで、保身の安泰か正義の苦難かというとてつもない二択を迫られ人間性を問われるのがはしし脚本と相性が良く、主人公が半端じゃない追い詰められ方してグイグイ引き込まれる。
二流会社の課長の主人公42歳は同じ課の女子社員と不倫をしており、彼女のアパートを出たところで自宅ご近所の保険外交員のオヤジに運悪く出くわしてしまう。その時は会釈だけで済ませたが、なんと後日保険外交員のオヤジが若妻殺害容疑で逮捕されしまう。しかし保険外交員のオヤジは推定犯行時刻時には別場所にいて主人公という目撃者もあるとアリバイを主張するが、主人公は証言すると不倫がバレて家庭でも会社でもまずいことになるので悩むという超絶面白いプロット。

不倫ファンタジー1:不倫ナイトメア9の割合の不倫カフェオレになっており、さえない風貌の中年オヤジが社内の女子社員と不倫してる時点でファンタジーだが、彼女のアパートでイチャついてる時がまた楽しそう。不倫相手も明るい感じの愛嬌のいい、男の都合のいい不倫相手像をパンパンに詰め込んだような女の子となっており、凄い楽しそうな不倫ファンタジーが爆発している。この不倫ファンタジーがあるからこそより罪悪感が高まり、こんなことしてたら絶対しっぺ返しを食らうのではないかというのでその後の不倫ナイトメアが訪れるのが説得力がでるし、何よりも不倫ナイトメアが際立つ。
不倫ナイトメアでは、ご近所のオヤジに見られたことで変にビビり出して世界がどんよりしたように感じられる。この映画は主人公の心情状況に合わせて照明などで画面の明るさ暗さを演出しており、主人公が精神的にさえない時にはドヨーンとした暗い画になる。また何気ない日常会話でいちいちビクつく。娘からのどこ行ってたの?何の映画観たの?の何でもない質問が観てて毎回ビクッとなり、こちらも疑似体験的に不倫をしているような気持ちになる。不倫がバレないようご近所のオヤジを見捨てると彼に重刑が課せられるという罪悪感も重くのしかかってくる。その上この後もさらに状況は悪化していくという、不倫をするとえらい目に合うマツキヨの不倫訓話を堪能できる。

この映画はとにかく男がクズばっかりで、まず主人公はただのキモオヤジでしかない。演じているのが小林桂樹なので、抜群の二流会社の課長感がある。しかもこのオヤジはもの凄く小心者で、不倫相手近くのアパートでご近所に会うだけで不倫がバレたらどうしよとビクビクするし、自分の嘘に真実味を持たせるために嘘で観たと言った映画のあらすじを暗記するのは笑った。不倫相手にも未練タラタラだし、小者過ぎてホント情けねぇオヤジだなとなる。
クズ男は主人公だけに留まらず、ポケモンみたいな感覚で結婚相手探しするエリート野郎や、ゴミクズ大学生などキモい男しかいない。ゴミクズ大学生は勝手に部屋の中に入ってるのキモすぎ。
太陽族みたいな若小池朝雄というレアなものも観れて得した気分。この映画を観て思うのは、不倫は良くない。不倫すると地獄行きという訓戒みたいな映画になっている。
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