ほわいと

ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFTのほわいとのレビュー・感想・評価

3.7
●初見時の印象
「ワイルド・スピード」シリーズはほぼスピンオフ的な2作目『X2』の時点でもはやシリーズとしては微妙で、3作目の本作で完全にもう終わったものだと思っていた。

そもそも今みたいにシリーズのブランドも確立されていなかったし、公開当時はさほど興味が無く、日本人キャストが持て囃されている時点で敬遠してしまい、DVDリリース後もしばらく見ていなかった。

今でこそ時系列上『EURO MISSION』の後になっているとはいえ、主人公を演じる役者が無名な上に、シリーズのキャラクターがほぼ出ておらず、有名なスターもいないんじゃ興味の湧きようもないじゃんと。

これが実際見ても「めちゃくちゃ微妙」と思ってしまったのが初見の印象。

●「ワイルド・スピード」シリーズの変異
4作目『MAX』で本作に登場するハンが登場し、『SKY MISSION』でいよいよクロスオーバー…と、時系列上で2015年の作品が2006年の作品と繋がるという後付けにしても力技過ぎる、とんでもなく無茶苦茶なシリーズの繋げ方を見せてくれた。
(冷静に考えると結構キツいけど、違和感の排除にはこれ以上ないほど努力が見られる)

1作目のキャストが集合するシリーズ4作目『MAX』からシリーズ復活という見方よりも、今となってはその後シリーズの柱となるジャスティン・リンが監督を務めたことからも、本作こそ復活の狼煙を上げた作品という見方が定説なのではと感じる。
 
※余談
「ミッション:インポッシブル」シリーズの3作目も本作と同様の存在だと思っていて、『ミッション:インポッシブル2』と 『ワイルド・スピードX2』もシリーズの中で同じ位置・扱いにあると思う。
この両シリーズは色々と共通点が多いので比較すると大変興味深い。

●シリーズにおいて唯一無二の存在
「ワイルド・スピード」シリーズは作品ごとに色んな側面がある中で、本作は他作品とは全く異なる、まぎれもない「青春映画」と言える。

そして、カーレースが作品を通してずっと主軸になり得ているのもシリーズで本作のみ。生のカーアクションも素晴らしく、車映画としても良く出来ている。

もちろん、本作が映画として完成度が高いなんて思ってないし、前述したように初めて見た時に「微妙」と思った点は、今でも一貫して良くないと感じている。

ただ、ジャスティン・リンがその後シリーズ全体の平均値を底上げし、本作以降で積み上げたものが本作『TOKYO DRIFT』の価値上げに繋げている。

●シリーズ映画の最高峰へ押し上げたジャスティン・リン
ジャスティン・リンが登板してからの「ワイルド・スピード」は本当にシリーズ映画として「お手本」と言えるほどに上手く作られている。
(少なくとも『SKY MISSION』までは。『ICE BREAK』以降についてはノーコメント。)

ここはMCUにも同じことが言える点で、シリーズを増すごとにシリーズ全体を面白くさせる力と、シリーズであることの強みを活かした構成力が卓越している。

現行のシリーズ映画でMCUを除けば、ここまで見事にシリーズとしての力を発揮している例は無いんじゃないかと思う。しかも、この作品数で。
普通のシリーズで8作目や9作目なんてダレてしまってたりするもんなのに。
(前述した類似点の多い「ミッション:インポッシブル」も凄いけれども、シリーズ映画の観点から見た場合に現時点では「ワイルド・スピード」に軍配が上がる)

※余談
海外で本作を評価する声は結構大きく、著名な人物で言えば本シリーズのファンであるクリストファー・ノーラン監督が特に好きな作品で挙げていたり、アーティストのフランク・オーシャンのオールタイム・ベストだったりする。ビビる事実。

●ハンが最高
本作が特別なものになっている一番の要素はサン・カン演じるハンでしょう!

これは前述したその後のシリーズの存在、そして、その中での活躍があってこそなんだけども、それ抜きにしても、めちゃくちゃカッコいい。

アジア系の俳優でこの雰囲気を出せる人って他に見たことが無いし、凄く独特な存在感がある不思議な人物。

それと比較すると主演のルーカス・ブラックはちょっと演技が硬く見えるような気もするし、元々キツそうだった高校生役が時系列の関係で今になってかなり効いてきてんなって感じはする。

ストーリーは別に特筆するところもないんだけども、主人公ショーンとハンの師弟関係を見ている時が一番心地良く、シリーズ通して見ると、このシーンがより良く見えてくる。

●ハリウッド定番のヘンテコ日本描写
もはや言っても詮ないことだけども、やっぱり日本描写が雑い。それによって日本人目線だと色々評価が下がりやすいとは思う。
(すべて「日本人目線だと」の一言で片付くと言えばそこまでなんだけど)

特に台詞が多いD.K.役のブライアン・ティーの日本語ははめちゃくちゃ気になる所で、ここはめちゃくちゃ残念。これこそ妻夫木聡が演じれていれば…とつい考えてしまう。

これは当時から今に続く「海外で活躍できる日本人が渡辺謙、真田広之、浅野忠信くらいしかいない問題」を象徴してしまっている。

一概に断罪することは出来ないけれども、現に千葉真一もそこそこ台詞がある役で出演することは出来ているし(言語だけが理由とは言わないが)、日本で活躍する役者にも英語が話せれば間違いなく可能性はあっただろうし、もしかすると若い世代にとっての『ラスト サムライ』になり得たかもしれない…なんて思ったりも。

そもそも主人公を「ガイジン」呼ばわりするD.K.が日本人から見れば、その「ガイジン」と同じ立ち位置なわけだし、D.K.組がアジア系アメリカ人であることは物語を味わう上でもマイナスポイントになっている。
しかも「ガイジン」なんて言うヤツが英語話すか?というのもあるし…なんかそこは本当すっごい残念。

■本作の一曲
DJ Shadow, Mos Def - Six Days (Remix)
https://youtu.be/5JhKWFxLhKo