ほわいと

それでも夜は明けるのほわいとのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
4.5
■話は弱いが評価したい
本作は話として弱いところもあるんだけど、手記の映画化と考えれば、かなり忠実で見事なんじゃないか…なんて風に言うのは言い訳かもしれない。
とにかく「映画化したことに意味がある」とは先に明言しておきたい。
ただ、明らかにソロモン(主人公)視点という構造上、内容が薄くなっちゃってる部分はある。
それでも評価したい作品。

■スティーヴ・マックイーンの作家性
本作の監督を務めるスティーヴ・マックイーン監督の前作『SHAME -シェイム-』でも目立った、長回しを利用した見事な演出は釘付けにさせる。嫌な緊張感を持たせるのに非常に有効的な手法だった。
同じく『SHAME -シェイム-』で感じたもう一つの点は撮影の美しさ。スティーヴ・マックイーン監督の写真家としての活動が反映されていると思われる構図の美しさが今作でも見られていて、見ていて飽きにくい作りになっているとは思う。

■たった「12年」の擬似体験
今回この映画で描かれたことは17世紀から19世紀の200年以上続いたアメリカの奴隷制度の中のたった「12年」だけの話。
この映画がどれほど過酷なものを描いていたとしても、現実はさらに残酷だったということは前提として、気が遠くなる程の長い年月の間、奴隷制度があったというのがまず許し難いことだし、それをほんのわずかでも疑似体験させてくれるこの映画の意義は大きいと思う。
ほんのわずかな部分でも身が擦り切れるような痛みを感じさせるほどの過酷さは伝わる。あれほどの残虐非道な行いを実際に受けて、死んでいった人たちのことを思うと非常にやるせないし、よくもあんなものを「制度化」したと、腸が煮えくり返って仕方がない。

■本作が抱える問題点
都合の悪い部分は「実話だから…」で逃げれるんだけど、本作の問題でよく挙げられる点としては、「時間経過」があまり感じられない点。
たしかに物語のラストで「そういえば…12年間奴隷の話だっけ?」となってしまう部分はある。主人公は若干白髪が生えてたりするんだけど、「いつの時代で、奴隷になってから何年目の話?」っていうのが後から思えば結構あった。
それにより重圧な内容なはず「なのに」、なぜか薄く感じさせられる。
ラストは事実だから仕方ないとはいえ、ただでさえ薄味なのに、この時間経過の薄さがその淡白さに拍車をかける。

小さいことでは、ソロモンを助けるブラッド・ピットの「いいとこ取り」の露骨さ。役柄がフットワークの軽い、重い雰囲気が続く劇中では最も浮いてしまうキャラクターであることと、そんな良いキャラクターを本作のプロデューサーが演じるのか!というので、余計スッキリしない人が出ている模様。
ただ、時間経過のことと比較すれば、映画に対する評価には全く差し支えないのない点で、ここは黒人差別が色濃く残る南部出身でありながら、本作をなんとか映画化まで持って行った執念と苦労に見合うポジションがあてがわれて然るべき…というブラッド・ピットのファンからの弁解をさせていただきたい。
(これはあくまで本作の印象問題です)

■邦題が舐めてる
これは余談として、「邦題」がよろしくない。
原題は"12years a slave"。どうしたって「12年」と「奴隷」は入ってくるはず。「奴隷」というインパクトある単語を使用することを配給会社が躊躇するのは分かるが。

ソロモンは「12年」奴隷だったわけだけど、そうじゃない人の方が数え切れないわけで。
それを思うと「それでも夜は明ける」なんて素直に受け入れられない。これじゃあ辛いこともあったけど、諦めなければ乗り越えられる…なんて話とでも言いたげ。

あのラストは全くそんなもんじゃないだろ!ソロモンが去ったことによって怒り狂った主人の怒りの矛先が、残された奴隷となっている人たちに向かうであろうということは容易に想像できる。

「それでも夜は明けなかった」人々のことを想像すべきだろと思わざるを得ない。ソロモンは結局「北部の人間だった」ことで助かっただけだというのに。

昨今ですら黒人問題があまりにも多過ぎるし、本作の公開後も人種問題を描いた作品は大量に作られている。まだまだ「夜は明けてない」し、闘いは続けられている。

一体いつ「それでも夜は明ける」というのだろう。ふざけてるね。
ポジティブな単語を付ける意図も想像できなくはないけど、本作の内容からは到底受け入れ難い。