ロシアを大人する作曲家チャイコフスキー。その名声の背景にある性と金と愛と死と、彼の人生にまつわる毀誉褒貶全てを余す所なく描き出した一代叙事詩。
NHKの大河ドラマでは決して描かれないような、清濁併せ呑む有無を言わせぬスライフオブライフのケン=ラッセル監督の巨篇である。
冒頭からして既に彼の同性愛を描き、その"普通からの逸脱"から世人のレールに戻ろうと結婚し、家庭を持つが、皮肉にも社会的立場を持つ成人男性たろうと振る舞おうと足掻く中で創作活動がままならなくなってゆき、やがてアーティストとしても社会人としても破滅的な自死に突き進んでゆく...。
なによりも残酷なのは彼のパトロンたる未亡人のご婦人の態度。
彼の"まともな結婚"を快く思わず、彼の社会的規範からの逸脱こそ創作活動の源泉であることを冷静に冷酷に見抜いており、彼の煩悶は他所にして作曲の良し悪しのみで援助を決める。あまりにも彼の才能に対して真摯で、彼という人間に対して冷血である。
内容的に商業的であるとはとても言い難く、赤裸々過ぎてDVD化は難しいのかもしれないが、そのセクシャルでエキセントリックな作風で知られるケン=ラッセル監督のフィフモグラフィに恥じない名作には違い無く、彼の作品が好きな人には是非ともなんとかしてVHSなりで観て欲しい次第。