青山

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間の青山のレビュー・感想・評価

3.7
私がパノラマ島を訪れたのはいつのことだっただろうか。鬼がから笑うあの孤島を訪れたのはいつのことだっただろうか。
かれこれ五年くらいは前になる気がするが、未だにあの悪夢から醒められないでいる。
作家やミュージシャン、映画監督にも私と同じ赤い夢を見た人は多いようで......。

過去の記憶を失い癲狂院に幽閉された人見は、サーカスの少女が歌う子守唄を聞いて引っかかりを感じる。しかし、その少女が殺害され、嫌疑をかけられた人見は、自らに瓜二つの富豪・菰田が死んだことを知り、彼になりすますために北陸へと向かう。
まんまと菰田になることに成功した人見だが、菰田家では不思議な出来事が相次ぎ......。

というわけで、江戸川乱歩全集です。でーん!
映画なのに「全集」というタイトルは不思議な気がしますが、本作は『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』を軸にして、いくつかの乱歩短編を足したストーリーになっています。いわば乱歩傑作選のREMIXのようなストーリーになっているのです。

まず序盤は『パノラマ島』のストーリーをほぼなぞっていきます。
他人になりすましてボロが出そうになるのをなんとか取り繕っていくハラハラ感は楽しいですが、序盤まではまぁ普通。復活のシーンだけなぜかショートコントになってて笑いましたが。

中盤ではパノラマ島潜入ということで全身銀塗りの女たちや生クリームを全身に塗りたくった(たぶん違う)人たちなど、悪夢的なやばい映像が繰り広げられます。
映画より小説の方が優れている点は「映像がないこと」だと思います。映像がないからこそ想像で自分にとって一番美しい悪夢を描けるのが「パノラマ島奇談」なのです。原作がそんな作品なので映像にした時点でコレジャナイ感が出るのは致し方ないところですが、本作のサイケでヤバイけど行き過ぎてない控え目さは悪くなかったと思います。

終盤では『孤島の鬼』やいくつかの短編をぶち込んでおきながら一つの物語として纏め上げる力技の解決編が光ります。ただのごちゃまぜ闇鍋映画なのかと思ったらここまで見事にREMIXされるとは......。カルト映画だと思ってナメてましたが、原作付きミステリ映画として素晴らしい出来になっていると思わなくもありません。思います。

っつーかでもラストだよ!ずりいよこれは!今までのこと全部吹っ飛ぶくらいの爆笑ラストシーン。コーヒー飲みながら見てたら大惨事になっていたでしょう。口に物を入れてなくてよかった。

わざわざDVD買ったけどラストシーンだけでその甲斐がありましたわ。
青山

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