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白い恐怖のJAmmyWAngのネタバレレビュー・内容・結末

白い恐怖(1945年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

精神分析によるアプローチがサスペンスとしての展開と結託しているワケだけれども、リビドーや欲求的な解釈の介在しない夢分析の方法も、また対話というスタイルも、それらはフロイト的な内容のものではないと思われるし、そもそも精神分析ってこういう事でしたっけ?という疑問はあるけどまあ面白い。そうした精神分析的アプローチの担い手は、主人公コンスタンスとブルロフ教授の二人がメインになるんだけど、それぞれの患者(=J.B.)に対する姿勢の差異がしっかり映像で語られているのだから流石である。

ブルロフ教授は、座っているJ.B.の背後に立って対話を始めていて、それぞれの目線の位置関係には高低の差があるワケで、この差はある種の権威的な主従関係を連想させる。その後目線の高低は是正されていくんだけど、それでもお互いの視線が合わない状態を経て、そしてようやく二人は顔を見合わせるのである。というかこの教授はフツーに"I'm going to be your father image. I want you to look on me like your father."と言っているんだニャン。

一方のコンスタンスは、J.Bに対して精神分析的な対話を実行する際、初めからその目線は同じ高さであるか、あるいはむしろ彼よりも低い位置に置かれていて、二人の視線はバッチリと絡み合っているのである。向かい合う二人がカットバックされる場合も、それぞれがほとんど同じサイズのショットで切り取られていく。ブルロフ教授とは対称的に、コンスタンスとJ.B.の間にあるのは主従関係ではなく、それは患者であり恋人としての対等な関係なのである。なんかこの辺は若干ユングっぽい感じがする。ただ冒頭におけるコンスタンスは、女性患者をベッドに寝かせて話を聞くというフロイト的な形式を実践していた人なので、その後のJ.B.との関係性はそうした点とも対比されているのだと思える。

まあ何にせよ、無意識の記憶を明るみに出すための最終プロセスとして、精神分析的な深層心理に迫るイメージを、サスペンス・エンターテイメントとしての「スキーの滑降」という運動にオーバーラップさせて盛り上げたりしちゃうんだからやっぱり楽しくて面白いのでした。
夢のシーンにおけるダリの美術は、視覚的にはダリっぽいというか多分にキリコっぽさがあって、まあそれはもともと形而上絵画からシュルレアリスムへの多大なる影響があるんだからねーという取るに足らない分析めいた感想を、極めて低い目線から抱いたのでございました。おしまい。
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