ポルりん

岸辺のふたりのポルりんのレビュー・感想・評価

岸辺のふたり(2000年製作の映画)
4.1
「アニメーションは言葉に頼らず伝える芸術」といったものを体現した作品。


■ 概要

2002年の広島アニメフェスでグランプリと、観客投票に依る最も支持された観客賞、その2つを同時に受けた作品。
オランダのドゥ・ヴィットの8分の短編。


■ あらすじ

『幼い娘を置いて、岸辺からボートに乗って行ってしまったまま戻ることはなかった父。
遠い日の父の面影を求めて・・・。』


■ 感想

◎ シナリオ

ストーリーはシンプルそのものであり、ラストの結末も容易に予想出来るものとなってはいるものの、それでも心を揺さぶれ、自然と涙が溢れ出すようになっている。
父親が娘の目の前から去った理由や、父は何処へ行ったのかなど、ストーリーに謎は多いが、鑑賞後は一種の読後感のような余韻が残る。
恐らくは、戦争か何かで遠征し、戦場で帰らぬ人となったと思うが・・・。

見ようによっては男側からの裏返しのファザーコンプレックス願望と感じられなくもないが、それを差し引いたとしても、誰しもの心を打つ感動的な話となっている。


◎ 演出

ナレーションやキャラクターのセリフ等は一切なく、派手な動きもない。
だからといって、上記に挙げた通り難解な作品という訳ではなく、むしろ誰が見ても内容が直感的に理解出来るように表現されている。

アニメーションはデジタルシステムANIMOというものが使用されており、墨絵をも思わせるセピアのモノトーンに線画調のキャラクターを配置し、余白を活かしたスタイリッシュに洗練された非常に美しく詩的なフィルムになっている。
また、色調を抑えられ手作りさを感じる味わいになっており、年齢に関係なく受け入れやすいアニメーションになっている。

音楽に関しても素晴らしく、物語全編で流れる「ドナウ河のさざなみ」という曲は、アコーディオンとピアノの音で奏でられており、哀愁を帯びた美しい音色を奏でている。
こういった曲調が作風とマッチしており、この上なく手作り感のあるアニメーションと自然に調和されている。
また本作では、セリフやナレーションがない代わりに、音楽でキャラクターの心情を表現しており、ナレーションの役割も果たしている。

主人公である娘が、遠い日の父の面影を求めて毎日自転車で岸辺に通い続ける際、すれ違う人々の年齢層が変わっていく表現。
娘の成長過程を、一人の自転車から二人連れになり、家族が増え、最終的には一人になるという変化を見せ、動きもそれに連れて変わっていく表現。
そして、過ぎて行く時間と積み重なっていく想いを濃密さの見事な表現に、思わず感銘を受けてしまう。


◎ 総括

第73回アカデミー賞短編アニメ賞を始めとして多数の賞を受けるだけあって、素晴らしい出来となっている。
真に優れたアニメとは本作のような作品を指すのだろう・・・。

正に、「アニメーションは言葉に頼らず伝える芸術」を体現した作品である。

ただ、本作は音楽と映像のみで、監督が鑑賞者に伝えようとしているメッセージを、己の類推能力を活用して読み取るように促すという作りにもなっている。
だから、解釈を託されるのが苦手な人は本作を堪能する事は出来ないかもしれない。

とはいえ、個人的には下手にセリフで説明されるよりも、音楽と映像のみで物語を語る作品が好みであり、その中でもかなり完成度の高い作品となってるので、是非とも鑑賞してほしい作品の一つである。
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