ボブおじさん

自転車泥棒のボブおじさんのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
4.4
この映画を初めて観たのは自分がまだ小学生の頃だった。完全に子供の目線で観ていたが、とにかくやたらに切なかった。

第二次世界大戦後の荒廃したローマを舞台に、盗まれた自転車を取り戻そうと必死で市中を捜し回る父子の姿をどこまでもリアルに、そして切実なタッチで描いた、イタリア・ネオレアリズモの不朽の名作。

前作「靴みがき」に続いて、名匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督が演技経験の全くない市井の人物を主役に起用。生活の匂いを持った役者を使うことで貧しさがよりリアルに伝わってくる。

失業者や浮浪者が町中にあふれかえる戦後ローマのどん底の現実を背景に、やっとポスター貼りの職にありついたものの、仕事の足に必要な自転車を盗まれてしまう。

親子3人が貧しさから抜け出せる一瞬の希望が、スルリと手の中から逃げ出してしまう。盗まれたのは大金でも宝石でも自動車でもない。たった1台の、だが家族にとって頼みの綱の自転車だ。

初めて観た時、一番印象に残ったのは自転車泥棒の場面よりもドシャ降りの雨の中、打ちひしがれた親子がうつろな目で歩いているシーンたった。絶望感に包まれた中、冷たい雨が父親の気力を奪っていく。

ラストの自転車を盗む前の無言の演技は、心の中の葛藤が伝わってくる名シーン。そしてその後のトラウマになるあの場面。この少年は、一生涯自分の父親の行為とその報いを胸に焼き付けるのだろう。

そして父親もまた、子供に見られたことを生涯心に抱えて生きていく事になるのだろう。戦後のイタリアの貧困が生み出した、子供の目の前で起きた小さな地獄。

この映画はイタリア・ネオレアリズモ屈指の傑作として一躍世界中で絶賛され、第22回アカデミー賞特別賞(後の外国語映画賞)ほか、多くの賞にも輝いた。

だが私にとってデ・シーカとの出会いは、厳しく、怖いものだった。