ボブおじさん

8番目の男のボブおじさんのレビュー・感想・評価

8番目の男(2018年製作の映画)
3.9
2008年に韓国で導入された国民参与裁判をテーマとした、実話を基に描く法廷サスペンス。人が人を裁くことの重さと難しさについて考えさせられる映画だった。

韓国史上初めて、国民が参加する裁判が開かれる日。陪審員のひとりが疑念を抱いたことをきっかけに、容易に進むはずだった尊属殺人の公判が予期せぬ方向に進んでいく。

そのタイトルと上記のあらすじから、多くの映画ファンはシドニー・ルメットの監督デビュー作にして密室劇の最高峰「十二人の怒れる男」を想起したのではないだろうか?

確かに決まりかけていた方向が、ひとりの陪審員が抱いた疑問により、徐々に覆っていくという展開や陪審制度の長所と短所を描いている点などは似ているが「十二人〜」が陪審員の審議室というワンシチュエーションの完全な密室で展開していくのに対して、本作は審議室の他に、法廷や被告人及び被害者の自宅などいくつかの場所に舞台が分かれている。

更に主人公のキャラクターが決定的に違う。冷静沈着で完全無欠な8番を演じたヘンリー・フォンダに対して、パク・ヒョンシクが演じたこちらの8番は、より等身大。優柔不断でどこか頼りない😅

共に陪審員制度の難しさと危うさを描いているが「十二人〜」が緊迫感溢れる会話劇だとすれば、本作はユーモアも交えた法廷エンタメ的な要素もあり、だいぶ毛色の違う作品となっている。

それでも審議室での多数派からの同調圧力や専門家の意見を絶対と思い込む所などは、実際の裁判でも十分起こり得ることだと思う。

〝有罪と言わせたいのか!僕には確信が持てない!〟

主人公が言ったこの率直な気持ちこそが刑事裁判の原則〝推定無罪の本質〟ではないだろうか。



〈余談ですが〉
本作で陪審員側から指摘された殺害の証拠や殺意の有無に対する矛盾点や別の可能性については、本来は弁護士が指摘するべきことだろう。

もちろんエンタメとして敢えて弁護人の影を薄くしているところはあるが、改めて裁判における弁護士の能力の重要性を痛感した。

実際の裁判でも弁護士の能力によって有罪になったり無罪になったりすることは大いにあり得ることだと思う。考えて見れば、これはこれでかなり怖い話である😅