Garikuson

エスターのGarikusonのネタバレレビュー・内容・結末

エスター(2009年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

第三子を死産してしまったケイトは、悪夢にうなされる日々を過ごしていた。夫ジョンとの話し合いの結果、「死んだ我が子に注ぐ筈だった愛情を、親からの愛情を知らない別の子にあげたい」という結論に達した夫婦は、とある孤児院を訪れた。シスターの案内の中、夫婦は不思議な女の子に出会う。
彼女の名前はエスター。歌と絵が好きで、礼儀正しく聡明なロシア生まれの9歳の美少女である。
夫婦はエスターと打ち解け、エスターを養子とすることを決意。ヤンチャでちょっぴり反抗期な第一子ダニエル、生れつき難聴で引っ込み思案な女の子の第二子マックスの兄妹として、エスターは一家に迎え入れられる事となったが…

この映画、所謂「結局人間が一番怖い」を地で行くスリラーである。
エスターは他の映画に出てくるレザーフェイス、ジェイソン、レクター、ジグソウといった、パワーでゴリゴリと日常を破壊するキャラクターと比較するとかなり静かで粘着質なアタックをしかけて来る。見えない所での暴力、傷口に塩を揉み込むような強烈な口撃、さらには夫への色仕掛け。おお、怖い怖い。
果てはエスター、ケイトを悪者にする為に、自分の腕を万力でへし折るという並々ならぬガッツまで披露する始末。見上げた執念と感服する。
さらに悪い事にこの夫婦、妻ケイトはアルコール依存により泥酔していた時にマックスを死なせかけてしまう事故を過去に起こしており、夫ジョンは浮気をしていた事がある、という後ろ暗い過去があった薄氷の信頼関係。そんな所にエスターというインベーダーが介入してきたことにより、一家はしっちゃかめっちゃかになってしまうのである。なんとも気の毒なことか。

「ある日突然血の繋がらないロシア生まれの美少女が僕の妹に!」なんて今時のライトノベルも裸足で逃げ出すような設定。思春期の男の子なら誰しも一度は空想した事があるのではないか。しかし、ダニエル君の立場になると思うとゾッとする。
幾ら美少女とはいえ、部屋中にスプラッターな絵を描きまくり、孤児院のシスターを鈍器で撲殺し、物置に放火し、事故に見せかけて車を暴走させ、挙句口封じの為に自分を殺しに来るようなエキセントリックな妹なんぞ欲しいものか。少なくとも僕は願い下げだ。真っ白な肌に返り血を浴びたエスターを見ると、美しい反面ゾッとする。
同じ妹役でも、マックスちゃんは殺人級にキュートである。この可愛さをみるだけでも、一見の価値があるとオススメできるくらいだ。

後半、「エスターは狂っている」とケイトが再三主張するも、上手く立ち回るエスターに騙されているジョンとカウンセラーのおばちゃんはエスターを擁護。この辺りの歯痒さはなかなかのものだ。オチを見れば、エスターのその聡明さも、立ち回りの狡猾さも納得。先天的なホルモン異常により身体が成長せず、実年齢はオバサンというリアルコナン状態だというのだからこれくらいは出来て当然。寧ろ、人生の殆どを精神病院と孤児院で過ごしてきたのだというのだから、33歳という年相応で考えると大分アホな部類だ。彼女の育った環境を加味すると、リアルな配慮と言える。

この映画において唯一よくわからない点、それは肝心のエスターの行動理由が「謎すぎる」事である。
何故にエスターは、この一家にここまでエゲツない仕打ちをするのか?そこが最後までぼんやりとしかわからない。
敢えて考察するならば、キーとなるシーンはジョンに色仕掛けを仕掛けて失敗し、部屋で号泣する場面と、過去に引き取った里親もエスターの色仕掛けを拒否して一族郎党殺された事件が関係していると思われる。
その病気のせいできっとエスターはまともに大人の男に愛された事が無かったのではないか。引き取られた里親の家庭をむちゃくちゃにして、精神的に参った親父を誘惑して、失敗したら口封じと癇癪で家族を皆殺しにしていたのではないか?程度の考察しかできない。
或いはただただ破壊衝動の強い異常者だっただけなのか?謎である。
序盤のうちは従順だったエスターが何処を契機に攻撃を開始したのか?も正直謎。ケイトとジョンのセックスを見てから?それとも学校で皆に馬鹿にされてから?

その辺り、よく取れば視聴者に考察の余地を残す、悪く言えばよくわからない点があるため、分かりやすい映画を好む僕には少々マイナスポイントとした。ゴリゴリのゴア描写や分かりやすいホラーを好む人にはあまりオススメはしないが、頭でいろいろと転がしながら視聴したい人にはわりかしオススメできる一本です。
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