ちろる

晩菊のちろるのレビュー・感想・評価

晩菊(1954年製作の映画)
3.9
林芙美子の短編小説『晩菊』を、田中澄江と井手俊郎が共同で脚色し、成瀬巳喜男が監督した本作。

かすかに残る女の残り香まで全て燃やし切って。
決して、決して裏切らないお金だけに執着する。
金に助けられて、金に守られながらも金によって人間らしさを奪われる。
皮肉だ。非常に皮肉だけど、昔も今もそれは変わらない。
成瀬の描く晩年の女の姿はほんと容赦ない。

杉村春子さん演じるきんをはじめ彼女の周りの元芸者仲間たまえ、とみ、のぶ何気ない日常の会話のやりとりで、それぞれが芸者を廃業したのちにどのように生きてきたのかが垣間見えるのが面白い。

かつては同じ稼業に精を出したのにもかかわらず、きんと、たまえ、とみ、のぶの3人は金貸と、借りる側という大きな隔たりができている。
その違いをきんを「超現実主義の卑屈屋」にしてしまった。
色恋話をバカにして、無駄話さえ嫌がるこの女には楽しみがないのか?と思うのだが、かつての恋人、田部の登場からのシーンから一転。
赤い血すら流れてなさそうなきんの顔がモノクロでも頬が紅くなって蒸気している様に見える乙女のような杉村春子さんの演技がとても好きだったなぁ〜
決してハッピーなお話でもなくどちらかと言えば世知辛いお話なのに、会話にたまにクスッとする笑いも入れてきて、素敵な人間賛歌に仕上げてくる。
流石の成瀬のバランス感覚のある演出に、しみじみとした余韻が残ります。
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