浮遊

キャバレーの浮遊のレビュー・感想・評価

キャバレー(1972年製作の映画)
4.3
久々の午前十時の映画祭、とびきり寒い早朝、酷な早起きをこなして本当によかったです
ショーの幕開け、いつだって心躍るの 奇妙なサーカスと似たような作りになっていてすごく良かった でも本作は無音のエンドロールで締め括られるなど、不穏な影を色濃く落としての幕引きで、それがひとつの魅力でもあった。豪華で煌びやかな音楽、弾ける肉体の豊かさ、戯けた表情の軽薄さ、忍び寄るナチスの足音、裏で絶えない暴力、悲しみの笑顔とさよならのてのひら。
煙草を常に吸っていたけど、ちっとも美味しそうじゃなかった でも、画面いっぱいのキスシーンはとってもよかった 幾つかあったけど、全部よかった ぬくもりとこうふくで満ち満ちていてちっともいやらしくなくて、清潔だった 画面に血が通ってるかんじすらした  
眠たいだけ、って不機嫌そうにしないで 自ら放った手づくりの四葉のクローバー、切なかった 目の前のありきたりな幸福に不釣り合いな自分、どうしたって陰るきもち、わかるけど、 この映画でいちばん平和なひととき、あのピクニックだったはずなのにとっても冷ややかだった やっぱりお酒で誤魔化してぬくぬくヨレヨレしてるときがいちばんしあわせなのかな、でもほんとのときめきは素面のときにうまれるって信じたい
性愛の結果が妊娠なの、酷 当たり前だけどみんなそれを通過して生きてるの、すご 子供じみた夢、諦められないの 幸せになりたくって、なれそうで、でもひとりで踠いちゃうの、くるしい でも歌をうたうし仕事を続ける 
バツン!て物語が終わるのも、酷で良い 歴史は変わらない 映画は終わっても人生は終わらない ララランドと似ているけどゆめゆめしいようでそれでいて現実に基づいていて、でも喜劇的に終幕を迎えるの、冷酷で重くていい ドイツの時代背景詳しくなくて完全理解には至ってないが、それでもダメージを負うほどの重みがあった
キャバレーのボス?がとっても魅力的だった ばしばしの睫毛 薄めの白化粧 戯けた表情は皮肉が効いていた 夢案内人のようだったし、現実に引き戻す悪魔みたいでもあった マネーマネー叫ばないでください… 下品でいて核心をつく演目の数々、観客みな笑っていたけどあたし笑えなかった あきらめと逃避の笑いなんだろうな 
人生はキャバレー キャバレーにおいでよ そう高らかに唄う彼女のラストシーンに落涙 いつでも戻ってこれる場所が映画にはある さみしい観客を人生から連れ出してくれる映画 私の街にはもう、キャバレーは存在せず、でもあたしには映画があるからいつだってチケット無しでそこにたどり着くことができる
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