Kuuta

東京オリンピックのKuutaのレビュー・感想・評価

東京オリンピック(1965年製作の映画)
3.8
失敗した。これは良い環境で見るべきだった。市川崑による1964年東京五輪の記録映画。

聖火が日本にやって来る場面に始まり、開会式、競技、閉会式とシンプルな構成。平和のための祭典と、そこに参加した人々の感情を時に繊細に、時にコミカルに描く。

望遠でドカンと撮る大作映画らしい風格と、テンポの良い編集の組み合わせから来る市川崑らしいポップさ。音のメリハリも独特。プレーの音だけが浮き上がっていたり、息遣いを入れていたり、歓声が急に聞こえたり。

注目の試合ほど、テロップで淡々と選手名を語り、競技をじっくり見せる。チャドの選手をクローズアップするシーンのように、解説を入れて人間味を伝えて来るパターンもある。選手のインタビューが一切ないのが映画的で良かった。

印象的だったシーン。
・冒頭で沖縄、広島を聖火が走る場面を入れた意味。「この大会は作られた平和」と断じるラストとのリンク。
・日常を超越した開会式の高揚感。やっぱ理屈抜きで感動する。
・意外と初日以外は天気が悪かった
・応援し過ぎてむせるソ連の若者
・選手村でぼっち飯のチャドの選手。色んな種目で、極限状態で戦う孤独が描かれている。
・ヘーシンクの試合。結果は知っているのに普通にドキドキした。感情を抑えるように表彰台に立つ表情に鳥肌。
・射撃。暗い照明の中でカチャカチャとライフルを操る音だけが響き、的を捉えていく。狙う時に銃底に顔の肌がペタッと付く様。クソかっこよかった。
・日本の田舎道でロードレースやってる不思議な感じ
・ハードル走を正面から撮るのって当時からしてはかなり斬新では?
・800m走の長回しと驚異的な優勝者の後半の伸び
・カヌーのオールの揃う美しさ
・途中で座り込んだり、水をがぶ飲みするマラソンランナー
・まん丸の太陽と、それにかかる雲

今は誰もが当たり前に五輪を消費する時代となった。プロが増え、アメリカの放映権を第一にした日程が組まれ、メダル数を競うむき出しのナショナリズムがぶつかるようになった。良くも悪くも五輪が大衆化した証だ。その作用を早くから理解し、利用したのがヒトラーであり、リーフェンシュタールはプロパガンダ映画としてベルリン五輪を撮った。

市川崑はリーフェンシュタールの芸術性を認めつつも、東京を戦後復興の華々しい「ゴール」ではなく、終わらない戦後の一瞬の奇跡として撮った。そこには喜びも悲しみもユーモアもあった。祝祭ムードに塗りつぶされる以前の、生々しい五輪の姿が見えた。

こんな状況では難しいのだろうけれど、こういう五輪ならまたやって欲しいと素直に思えた。河瀬直美は「復興五輪」をどう撮るのだろうか。
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