くずみ

「元禄忠臣蔵 大石最後の一日」より 琴の爪のくずみのレビュー・感想・評価

3.8
二十代の現・坂田藤十郎磯貝がプリップリの存在感。勢いのある役者とはそういうもので、“扇雀ブーム”を起こしたのも納得できる。扇千景おみのが熱っぽい眼差しを注ぐのもさもあろう。ご馳走様。

この映画だけ見ればよくまとまっている。が、原作の元禄忠臣蔵「大石最後の一日」と比較するとどうか。一時間の制約で青果の理屈っぽい台詞を連投するのは無理なので、アレンジが必要なのはわかる。決定的な違いはヒロインおみのの造形だ。恋する自分をも冷静に見つめ進言する、理知的な面が削られている。彼女の最終的な行動が、思い余ってのものか、すべてを踏まえた上での選択かで、人物はまったく変わってしまう。
映画はロマンティックを重視したのだろう。戦前の価値観を持ち込むのを避けたのかもしれない。

二世鴈治郎、幸四郎時代の初世白鸚(スマート)共演と隙のない布陣なのだから、名台詞を彼らで聞きたかったとも思う。
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