デニロ

火まつりのデニロのレビュー・感想・評価

火まつり(1985年製作の映画)
4.0
1985年製作公開。脚本中上健次。監督柳町光男。熊野で起こった一族殺害事件に着想を得て中上健次が脚本を書く。何もこんな事件を、と思うのだが。

山と海の境目を巡る相克。山の国熊野に海洋公園を作るという。そんなことを語り歩きその用地周縁の土地を求め歩く三木のり平。山の男北大路欣也にそんなことが許せるわけもない。北大路欣也の心情は分かる。

80年代、90年代わたしは山に没入していた。山に登るために日々のスケジュール管理をしていた。何故山に登り始めたのかは若き日の苦しみがあったからなのだが、ひたすら登りに登ったのは既にそれが為ではなかったのだと思う。山に吞み込まれたのだ。ある時ふと気づく。音がなくなるのだ。自身の息遣いしか耳に入ってこない。眼が眩む。夜空を見上げると満天の星。天の川に吸い込まれそうになる。もはや顛倒しているのだ。

北大路欣也ももはや山と同化し恐れるものではない。海に対する敵愾心を隠すこともない。最近観た小川伸介『ニッポン国・古屋敷村』『1000年刻みの日時計 牧野村物語』では山の神様は女の姿で描かれていたけれど、そんな山の神を女にできるのは俺だけだと、立ったままの性交に固執する。

山の天気が変わり大雨の予感。皆降りていくが北大路欣也はひとり留まる。大木に触れながら何を感じたのか。オープニングクレジットに森下愛子とあったのだが、忘れた頃に登場。保育園帰りの幼児たちがUFOを見たと騒ぎ立てている。どうということもないシーンの果てにラストの目撃者となる。

JR東海がリニア中央新幹線を計画している。東京~名古屋、名古屋~大阪を1時間で結ぶそうだ。路線の86%がトンネル。東京~名古屋は何故か山梨県を経由する。直線を保ちたいそうだけれど、南アルプスの最深部じゃないか。伝付峠、二軒小屋の下部を通り、塩見岳と悪沢岳の間にトンネルを作る。ふ。大丈夫か、JR東海。

シネマヴェーラ渋谷 日本の映画音楽家Ⅰ 武満徹 にて
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