たく

異人たちとの夏のたくのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
4.2
だいぶ昔に観て引くほど号泣した作品。山田太一の原作小説をアンドリュー・ヘイ監督が映画化した「異人たち」が明日公開ということで、復習の意味を込めて大林宣彦監督の名作を再鑑賞。自分の両親が他界した今改めて観ると、両親が健在だった初見当時とはまた違った感慨が湧き起こってやっぱり泣けた。暖色系の柔らかい映像で描かれる浅草の下町人情がなんとも心に染みて、片岡鶴太郎の最高に粋な江戸っ子風情、そしてほんわかした秋吉久美子と暗い情念を纏った名取裕子の二大女優の対照的な色気が最高過ぎたし、風間杜夫の泣き演技がこれまた素晴らしい。ホラー要素もバランス良く盛り込まれてて、改めて大林監督作品の中で最上位に来ると思った。

人気シナリオライターの原田が妻と別れてやさぐれた生活を送ってたところに、同じマンションに住む謎の美女の桂(ケイ)が突然訪問してきて、今そんな気分じゃないと追い返す。この冒頭パートで永島敏行演ずる同僚と原田との三文芝居みたいなやりとりがいきなり白けるんだけど、名取裕子の登場で画面が一気に色気付くのがさすが大林監督の女優を活かすセンスを感じた。原田がこだわってるプッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」の「私のお父さん」が本作のテーマ曲的な扱いになってて、同作では歌い手が女性で歌詞もあまり本作には関係なく、曲のタイトルが全てなんだろうね。

原田が12歳で死別した若き姿の両親と失われた時を取り戻すかのような非現実的でノスタルジックな世界と、マンション住人のケイと恋人関係になった現実世界との綱引きみたいな感じになるという構図が実はミスリードで、終盤であっと驚く展開を見せるのがシナリオの上手さだった。生者が死者の霊に取り憑かれてどんどんやつれていくのが「雨月物語」を思わせて、ケイが彼を現実に引き戻す役割かと思えば予期せぬ真相が明らかになり、最終的に原田を救う人物の登場に話が綺麗にまとまってた。高橋幸宏がチョイ役で登場してたのは全く覚えてなくて驚いた。
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