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単騎、千里を走る。のtakのレビュー・感想・評価

単騎、千里を走る。(2005年製作の映画)
3.4
ここ最近のイーモウ作品は「HERO」にしても「LOVERS」にしても技術とスタアで彩られた映画だった。今回はイーモウカラーとも言うべき鮮やかな色彩はほとんどなく、そられは中国の雄大な風景に取って代わっている。逃げ出したヤンヤンを追って迷い込んだ岩場は、形作られるまでの長い年月を見るだけで感じさせる。また今回の出演者は主要キャストを除いて素人を使っているところも特徴だ。「秋菊の物語」の頃の素朴な温かさが画面からにじんでくる。寡黙な日本の旅人のために、いくつも机を並べてもてなしてくれる中国の人々。規則にしばられながらも主人公の気持ちに理解を示す役人たち。

人と人が顔を見合わせるコミュニケーション。ネットやメールが普及する現在、失われつつあることだ。その大切さをイーモウ監督は思いだして欲しい、という。言葉が違っても分かり合おうとする中国の人々とのコミュニケーション、ものを言わずとも心が通じ合ったヤンヤンとのコミュニケーション。そして息子との途切れたコミュニケーション。人と人とが通じ合うことはいろんな感情を生む。それ故に難しいことも現実にはあるけれど、通じ合えた喜びは何事にも代え難い。ヤンヤンとの別れの場面、台詞もなく黙って青空をバックに抱きしめるだけの場面。ただそれだけなのに涙があふれてくる。獄中につながれた俳優ジャーミンの息子に会いたい気持ちに共感した主人公が突然に中国奥地の村へ行こうとする。普通ならガイドは止めようとするところだろうが、この映画のガイドたちは主人公に協力を惜しまない。この映画の中国人は本当に”いい人”ばかりだ。

だがそれ故にとっても綺麗にまとめすぎたような印象も残る。中国側から見れば、日本人の旅人が自分の思いを貫いて中国のルールすら曲げようとし、人の生活に(善意だけれども)介入してくる話だ。ここ最近ニュースで流れる中国と日本の関係は、決して穏やかなものではない。でもこの映画には「日本人の旅人がわがまま言って」という発言をする中国人は一人たりとも出てこない。例えば刑務所の所長がこういう発言の一つでもしていたら、この映画はすごく現代性を感じさせるものになっていたと思うのだ。ラストの荒れる海を眺める健さんの背中・・・あれは蛇足な気がしてならない。それから、デジカメやビデオカメラの起動音がやたらと耳に残るのも気になった。SONYの宣伝かと思えるくらいに。
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