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火星から来たデビルガールの0000のレビュー・感想・評価

火星から来たデビルガール(1954年製作の映画)
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なんじゃこれ!

DVDのパッケージに「エドウッドを超える」とか「幻の珍作」とか「爆笑」とか「ツッコんであげましょう」とかいらんことばっか書いてあるけど、めちゃくちゃ真面目で高尚でしっかりしてて、演出も撮影も特撮も水準がすごく高い映画。
(目の前にいるデビルガールに火星から来たと言われたときの博士やおばあちゃんのリアクションの自然な演技とか感心するくらいしっかりしてる。)

で、50年代SFの前例だと『地球の静止する日』とかに近い真面目っぽさ(でかいロボットの登場は完全に影響受けてるっていうか普通に二番煎じ……)だけど、あれはリアリズム系のSF的シミュレーション系だった。でもこれはめっちゃベタなヒューマンドラマみたいなのに異物的にSFをぶつけてきてる感じ。
『遊星よりの物体X』とか『禁断の惑星』とかみたいなワクワクドキドキって感じのSF感でもない。
『宇宙戦争』みたいに、テーマや特撮はすごいけど人間ドラマ部分の演出がチープということにもなっていない。
ジャックアーノルドのSF映画(『それは外宇宙からやって来た』『大アマゾンの半魚人』『縮みゆく人間』)や本多猪四郎(『ゴジラ』『空の大怪獣ラドン』『地球防衛軍』等)に匹敵するとも言えなくないが、それもちょっと違う気がする、SF(スペクタクルやワンダー)と人間ドラマのバランスが違うというか、いやジャックアーノルドとか本多猪四郎だと大作すぎるし。
規模感的にはほんとにエドウッドとかと同等の内容のお話の映画なので、これほどB級C級然としたスケール感のお話(田舎の村に宇宙人が一人来襲、みたいな)でここまでしっかり撮ってる映画は他に『宇宙船の襲来』(I Married a Monster from Outer Space)くらいしか知らない。でもその感じとも違う。あれは何かメタファーとしての寓意的表現って感じが強すぎる。

ウルマーの『惑星Xから来た男』でももっとストレートにセンスオブワンダーだけに焦点合わせてる感じだし。

つまり、何が言いたいかというと50年代SFには「SFってそういうもんでしょ」っていうような、よくも悪くも固定観念みたいなのがあって、上に挙げた作品もぜんぶその内側にあるんだけど、これはそれを逸脱してる感じがある。

SFという虚構性のドラマへの組み込み方として、『ボディスナッチャー恐怖の街』よりフェラーラの90年代の『ボディスナッチャーズ』のほうが近いくらいっていうような感覚がある。あるいはスカヨハが出てた『アンダーザスキン』とかまたスカヨハだけど『her/世界でひとつの彼女』くらいの感覚でSFしてる。それを1954年にやってる。『パーティーで女の子に話しかけるには』は、ちょっと違うか……。『バックトゥザフューチャー』の1は近いかも……。とにかく50年代の感じじゃない。

感覚としか言えてないのでこんなこと書いても誰にも伝わらないかもしれないけど。
(超簡単に言うと、SFジャンルのストーリーの中にSF的ストーリーのためじゃない、SF性という中心に収束するためにあるわけでない要素が当たり前のように含まれてる、っていう一段階複雑化したことをやってる感じがある、というか。しかもそもそも「行き過ぎた科学への警鐘」とか「発達した科学技術に対する不安や恐怖」とかそういうテーマ的な前提で出発してもいない。)



宇宙人は文化的にも科学力的にも明らかに地球人の常識を超越しまくった存在(メフィラス星人とかみたいな)っぽく描かれてるし、それを1950年代の科学を前提とした想像力で描いてるものを、これだけ演出しっかりしてるのに「ツッコミどころ満載のバカ映画」みたいな見方してしまうのは想像力が貧困どころか自分の常識と異なるカルチャーや歴史への蔑視的なものまで入ってると思う。デビルガールの見た目だけはまあ好みは人それぞれってとこかって気もするけどもしリアルに火星人が明日地球に襲来したらデビルガールみたいな見た目してないとは誰も言えないし、ダースベイダーはありでデビルガールはなしってのもおかしな話だし、ミステリアンやX星人もどっこいどっこいだし、ギーガーのエイリアンのデザインも100年後の人は爆笑かもしれないし、みたいな、知らんけど。

円谷英二の味噌汁から思いついたって有名な伝説がある味噌汁噴火特撮(水中で色水が広がる様子を空中の煙に見立てる、『海底軍艦』ラストのやつとか)って初出がどの作品か知らないけど『ゴジラ』と同年(つまり円谷特撮の影響を受けてるとは考え難い)のこの作品で既に、クライマックスのUFO空中爆発シーンで味噌汁特撮やってた。
※追記。『ハワイマレー沖海戦』(1942)が初出らしいから円谷のほうが断然早い、んだけど、この映画作ったスタッフがゴジラ以前に円谷特撮から影響受けたってことあるのか……??
※全然覚えてないんだけどこの映画と同年1954年の『海底二万哩』でもやってるらしい。
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