きよこ

アーティストのきよこのレビュー・感想・評価

アーティスト(2011年製作の映画)
4.8
聞こえないはずの音が聴こえてくる。台詞を感じたくて前のめりになる。モノクロサイレント映画は集中力が試される。いつの間にか見えないものまで聴こえてくる。唾を飲み込み、呼吸を合わせる。

成功と挫折。見栄とか欲とか善悪とか全てが削ぎ落とされていく。モノクロだから自分の脳裏に描いた鮮明な多彩な色達、言葉達、吐息までがいとおしい思える。自らが作り出した擬似世界に心も身体も沈んでいく心地よさに浸る。見たことのない景色を魅せてくれる。贅沢な時間に心漂う。未熟で未完成だけど。この感覚は唯一無二。それぞれが観た世界はどんなだろう。



公開時、映画で仲良くなったばかりの後輩を誘った。異性だしなぜか無駄に緊張していた。映画って誰かと観ると少しリスクを伴う。感性が正面からぶつかってしまうと厄介だから。でもそんなそぶりは後輩には一切みせなかった。たぶん気づいていないだろう。二人で五感を研ぎ澄ましてこの映画に望んだあの日。夢中で観ていた後輩には何の心の揺らぎも雑念もなかった。最高の時間、最高の夜になった。帰り道、興奮していた後輩が『こんな素晴らしい映画を一緒に観ることができてよかったです。』と無邪気にいい放った。なんだよ。殺し文句だよ。あんなに心地よい瞬間は二度とないだろう。この出逢いとこの映画は秘かな宝物になった。。。


今日、4度目の鑑賞。随所にみられるオマージュと細工に新鮮な気持ちで気づく。音楽もいちいち可愛い。
みんなも唸ったであろう、スーツのシーン。何度観ても切なくてスタイリッシュで色っぽい。ドキドキして心を鷲掴みだよ(笑)。コップのシーンも全て楽屋での出来事だったなあとしみじみ。全てはそこから始まった。ワンコの活躍もほんとに可愛い。沢山ありすぎて書ききれないけど、とにかくニクい演出だらけ。うん。これ最高でしょ(*⌒3⌒*)



あれから6年。後輩が旅立って3年。
アーティストのように成功を掴んだ。
いつか渋い映画館を作ってほしいな。
招待してもらうんだ。VIP席で。
もっともっとでっかくな~れ!
きよこ

きよこ