螢

アーティストの螢のレビュー・感想・評価

アーティスト(2011年製作の映画)
3.6
なかなかに粋でニクい映画。全体の展開としてはものすごくシンプルなメロドラマですが、無声映画からトーキー映画への移行という時代の転換期を象徴的に使い、栄光と凋落の対比を、細かな演出を用いながら、とても巧みに描いています。

1927年のアメリカ。無声映画の大スターであるジョージは、新作の舞台挨拶からの帰り、駆け出し女優のペピーと出会う。
その後、偶然の再会と共演を果たす二人。
ジョージのささやかなアドバイスもきっかけにして、端役からスターへと駆け上がるペピー。
対して、無声映画からトーキー映画への時代の波に乗れなかったジョージはというと、凋落の一途を辿っていく。

大スターと数いる駆け出し女優として、かつてささやかにすれ違っただけと思われた二人の人生。
今をときめく大女優と、落ちぶれた「過去の人」へと完全に立場が入れ違った数年後、ジョージが人生のドン底の中である事件が起こったことから、ペピーがずっと秘めていたジョージへの想いが溢れ出すと共に、二人の人生は交錯して…。

セリフが入らない無声映画スタイルで、それでも十分理解できるようにシンプルかつ軽妙に進行する展開と演出をベースにしながらも、いかにも現代的に効果的かつ巧妙に音楽や物音が盛り込まれており、レトロとモダンのバランスが絶妙な、趣き溢れる作品に仕上がっています。

時代の潮流であるトーキーを示す「声」という表現が、声のない映像の合間合間にわずかに挟まれる字幕の中で象徴的に使われているのもいい。
対比するように、物語の最後の最後には、声が溢れているのもまた素敵。

難しいこと言いっこなしに、シンプルな展開と、レトロとモダンが融合した巧みな演出を楽しめる、実に粋な作品です。
これまで見たことがない無声映画を観てみたい気にもなりました。
螢