「『左ききの狙撃者 東京湾』の題名から狙撃犯と刑事の東京湾を舞台とした攻防を、アメリカ映画の「パニック・イン・スタジアム」風のイメージの作品かと思うと?!」
ネタバレありますよ😅
野村芳太郎監督作品で、特集回で見逃したので、今回の刑事映画特集でやっと鑑賞
日本橋高島屋付近にある銀行前で、車の運転手が、狙撃される。
事件を追うベテラン刑事の西村晃と妹の元恋人の若手刑事岡崎二郎。
狙撃現場を特定するため周囲を調べる場面は、中々リアル。右利きでは見えない場所でも左ききなら狙撃出来る結論が面白いがホントか?
千住界隈を聞き込み捜査してゆく内に、麻薬組織との関わりが出て、殺された男は、実は潜入麻薬捜査官だと判明する。驚く表現で、刑事達が泊まり込む当直部屋に、殺害された遺体が置いてあり、当直の刑事達はそこで気にせずに寝泊まりしていてビックリ。冬場だから腐らない?
張り込み先の雀荘で、西村晃刑事は、満州の戦場で、助け合った戦友の井上と出会う。
回想シーンで戦友の射撃で助けられた事を思い出し疑惑を深める。
戦友の身辺を調べる為、故郷の尾道へ向かい、そこで戦後に帰還した時の裏切りと挫折により人間不信になった事を知る。
荒川の河口付近にある、貸しボート屋で、知的障害があるが純粋な娘と結婚して幸せに暮らしているが、西村晃刑事に疑われた事で、逃亡者となり、広島行きの汽車の中で、手錠かけられた際に格闘になり二人共に壮絶な最後を遂げる。
映画は、ボート屋で夫の帰りを待つ娘の健気な姿で終わる。
「左ききの狙撃者 東京湾」の題名から狙撃犯と刑事の東京湾を舞台とした攻防を、アメリカ映画の「パニック・イン・スタジアム」風のイメージの作品かと思っていたら、見事に覆させられて、狙撃ライフルは、冒頭以外一度も使われず、人情と刑事の倫理物になる。
とにかく、最後の列車内での格闘が凄く、手錠で繋がれた状態で、車外から転落して引きずられてボロボロになる犯人の井上と、それを必死に引き上げようと、苦悶の表情で耐える西村晃。
今にもちぎれそうな血塗れの手錠のアップの次に反対の線路から突進してくる列車、驚く西村!
場所が突然変わり静かな早朝の川沿いの陸橋に二人の死体が、手錠に繋がれたら状態で並んでぶら下がる無慈悲な場面に唖然とする。
古い映画ながらとても、残酷な場面と緊迫のカット割りで、パンチがあり目に焼き付けられる。
脚本家の松山善三は、女性映画や人情物が得意なイメージだったので最初は、題名とアンバランスでは?と思ったが、成瀬巳喜男の「乱れる」での加山雄三の唐突かつ残酷な死と別れや「名もなく貧しく美しく」で描いた障害者夫婦の姿を考えると、松山善三らしいと思う。
そういえば監督作品の「典子は、今」も障害のある女性が旅にでる物語だったし、他に障害のある少年の物語を書いていたと思い出した。
そしてベテラン刑事の西村晃の凄味と情けなさが同居する演技は、素晴らしい。どうしても自分の世代だと2代目の水戸黄門のイメージが強いが、古い日本映画で、インテリから粗暴な悪党まで巧み演じて印象的。
何でも職人の巨匠の野村芳太郎監督の隠れた傑作と評価が高いのも頷ける作品。