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パラダイス・ナウのnetfilmsのレビュー・感想・評価

パラダイス・ナウ(2005年製作の映画)
3.8
 イスラエル占領地のヨルダン川西岸地区の町ナブルス。幼なじみのサイードとハーレドは、戦火の中で希望のない日々を送っている。そんなある日、サイードはヨーロッパで教育を受けた女性スーハと出会い互いに惹かれ合う。しかしその矢先、彼とハーレドはテルアビブでの自爆テロの実行者に指名されるのだった。幼なじみの2人は、車の整備工として働いているが、客のクレームからその仕事を失う。街が見渡せる小高い丘の上に座って、2人は自分の将来のことを漠然と考える。パレスチナの普通の若者の日常をごく自然に捉えた冒頭部分が素晴らしい。整備工場での長回しとその後のアクションつなぎは、アメリカ映画やヨーロッパ映画と比べてもまったく遜色ない。そんな時に自爆テロの実行犯に指名され、一気に緊迫の度合いが高まる。「神の思し召しならば」と二つ返事で受け入れたサイードだったが、ここでごく普通の若者の葛藤する姿を否応なく見せるのも監督の演出の上手さだろう。英雄になり、天国に行けると信じて自爆テロを起こすような人間は、我々日本人から見れば、視野が狭く、愚かにしか見えない。けれど大抵の自爆テロ犯の生い立ちを見ると、移民だったり、貧しいところの育ちだったり、生まれた時から境遇の悪い若者が少なくない。

 その上、この映画が我々の心に訴えかけて来るものは、主人公が密告者の父親を持っていたということである。密告者として処刑された親を持つ息子の思いは、我々には計り知れない。自爆テロに向かう前の理路整然とした描写がある意味で生々しい。頭を刈り込み、全身を剃り毛して、VTRで遺書を読み上げる。記録出来るメディアを一般人が気軽に持てるようになった時代が戦争の悲惨さ・残酷さを物語ってしまう冷静な恐怖の中で、ユーモラスな描写を交えながら、淡々と演出する。2人は英雄になると彼らを説得する男の英雄気取りな様子さえもごく淡々と描写する。結局、一回目の自爆テロはある理由があり失敗に終わるのだがこの失敗を起点にして、2人の心の葛藤はますます深まる。サイードを探すハーレドの焦燥感、心理的葛藤、これを監督は鬼ごっこのように捕まりそうで捕まらない2人の物理的距離を通して誠実に描く。英雄の娘は戦争の終息を願い、命の重さを訴えるが、ハーレドは一切聞き入れない。あまりにも衝撃的なクライマックスには賛否両論だろうが、ラストの主人公サイードの目のアップが否応なく訴えかけて来る悲しさは我々の心を捉えて離さない。とても印象に残るラスト・シーンである。