いち麦

エル・スールのいち麦のネタバレレビュー・内容・結末

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

それまで娘エストレリャが知らなかった父親アグスティンの実像が次第に見えてくるミステリアスなテンションが良い味わいだった。研ぎ澄まされていく娘の感受性と作られていく大人の男性観。娘の初整体拝受の儀式はまさに彼女が大人へと成長していく姿を印象付ける。時々目の覚めるように美しい画にハッとさせられた。
映像描写よりも主人公エストレリャのナレーションが優位な印象だが、短いショット、会話の端々や周囲の音などパズルのピースを組み合わせるようにして想像させる余白も残っている。“南”へ転地療養に向かえば全てが見えてくるのかも知れない…と思わせる結びが不思議に温かく感じられた。

父親アグスティンは何故自殺したのだろうか。彼は胸に秘め続けていたラウラという女性(イレーネ・リオスの名前で映画「Flor en la sombra」(日影の花)に出演していた)にやっとのことで電話で話をしたのだが、恐らく彼女はつれない様子だったのだろう。妻フリアにも気付かれ夫婦は冷えた関係になった。幼い頃からの娘との親密な関係だけは守り続けていきたかったのに、誘った昼食の席で娘から問いただされた挙句、意を決したものの、その話を聞いて貰うことすらできなかった。自分に向けられた娘の視線が変わってしまったことに気づいた父親。溺愛していた娘との関係変化にも絶望したのではなかったか。政治思想の違いから父親と祖父が反目していたと父親の乳母ミラグロスが言っていたが、案外、内戦がラウラとの破局に絡んでいたのかも知れない。ラウラの書いた「あの場所」のことが知りたいと思った。
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