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バンパイア・キッスの一人旅のレビュー・感想・評価

バンパイア・キッス(1988年製作の映画)
5.0
ロバート・ビアマン監督作。

マーティン・スコセッシによる不条理コメディの傑作『アフター・アワーズ』(85)の脚本を手掛けたジョー・ミニオンが書き下ろしたシナリオをロバート・ビアマン監督が映像化した異色のホラーコメディで、吸血鬼にされてしまったサラリーマンが辿る末路をブラックユーモア満点に描いています。

NYで出版社の管理職を任されているサラリーマンの主人公が、ある日出逢った魔性の美女に首元を咬まれたことをきっかけに、少しずつ吸血鬼へと変貌を遂げていく様子を描いた“バンパイア物+破滅劇”で、当時24歳(見た目は老けすぎ)のニコラス・ケイジが『リービング・ラスベガス』(95)の前哨戦とも呼べる迫真の憔悴&混乱演技を見せつけています。

“主人公は本当に吸血鬼に咬まれたのか”それとも“総ては主人公の妄想に過ぎないのか”―という二者択一の謎を維持したまま展開される不条理ブラックコメディで、自分の秘書を見下す傲慢なエリートサラリーマンが十字架や光を嫌うようになり、さらには雑貨店で購入したおもちゃの牙を口に装着して吸血鬼になりきっていく様子が加速度的に進行する精神崩壊を伴い映し出されています。

主演のニコラス・ケイジの芸達者な演技に瞠目させられる作品で、只の性悪なサラリーマンから狂気と欲望に満ちた自称吸血鬼へと変貌を遂げる主人公をオーバーに怪演していますし、彼を翻弄する魔性の美女に扮したジェニファー・ビールスの神出鬼没で謎めいた存在感も異彩を放っています。

蛇足)
劇中、TVで放映されている映画はF・W・ムルナウの古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)で、本作でニコラス・ケイジ演じる吸血鬼の独特の所作のお手本にもなっています。
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