Torichock

ペネロピのTorichockのレビュー・感想・評価

ペネロピ(2006年製作の映画)
3.9
「Penelope/ペネロピ」

「アナと雪の女王」に対して、「マレフィセント」の女尊男卑ほどではないにしても、実は強く不快に思うところがある僕にとって、コンプレックスや容姿の話は最もデリケートなテーマ。

魔女の呪いによって豚の鼻と耳を持って生まれてきてしまったクリスティーナ・リッチ演じるペネロピ。彼女の呪いを解くカギが、真に彼女を愛する"仲間"が現れる瞬間。
ペネロピを愛する者を探そうとする両親は、彼女の呪いを解くカギ(フィアンセ)を再三にわたり探そうとする中で、音楽を諦めてギャンブル漬けの毎日を送る、英国の僕ことジェームズ・マカヴォイ演じるジョニー"マックス"と出会い、狭い部屋に閉じ込められていたペネロピの心が少しずつ解放していく

パッと見での物語のテーマは、よくあるストーリーなのかもしれません。が、ここ数日で僕がひたすら考えに考えを重ねていた事柄と非常にリンクしたので、見直して書かせてもらいました。

まず、お話のプロットそれ自体は、いわゆるディズニールネッサンス的な、真に愛する人に出会い、愛されることで、呪いは解けていく話、のように見えるんですが、僕はどうしてもそこに重ねられなかったんです。
なぜなら、いわゆるディズニールネッサンス的な真実の愛というものが

"他者によって与えられるもの"

という考え方がどうしてもつきまとってしまうからなのです。
個人的な考え方ですけれど、そういった物語上、誰かによって"自分にかけられた呪いを解くカギ"を与えられる存在というものは、その呪いに対して誠心誠意向き合ってきたものだけが与えられるものだと思うんですが、ディズニールネッサンスの作品は、僕にとってそれが見えづらいものなんです。
というよりかは、呪いにかかったものよりも、呪いにかかったものを受け入れる側の人間性が


"出来すぎている"

という問題にぶち当たってしまうと感じるんです。
めちゃくちゃ意地悪に言えば、自分の呪いに対して、怒りをあらわにして人を脅したり、スネて氷の城を作って閉じこもったりするような感覚を、無条件で愛してあげられる、心の広〜〜い王子様や仲間がいたからこそ成り立ってる話。
もちろん、コンプレックスがそういったものを生み出していくことはわかるんですが、僕にとってその解釈は、正直な話、甘やかせにすら感じるところは多々ありました。
だって、世の中にはそんな人はなかなかいないし、例えいたとしても、呪いにかかったものには圧倒的な魅力があるわけじゃないですか。一国の姫だったり、王だったり。
"Someday prince will come"を信じるのは大いに結構だし、夢に焦がれるのも自由ですけれど、そんな人間はなかなかいないし、それに見合うだけの輝きを持つには、それ相応の努力や我慢や忍耐とかが必要だと思うし、ってか!!僕は王子でもなんでもないんやで!


さて、このお話が、僕の中で筋が通っていたと思う部分は、人間性の部分。

ペネロピの豚の部分を見て、ウワッと引く人間を醜く描きすぎず、この映画内の王子様的な立ち回りのジョニーでさえ、最初はしっかりとペネロピに対して拒否反応を示すところです。
これが、この人間が特別なんだという王子様表現を抑えていたと思うし、それによって、ペネロピ自身が呪いに対して自分なりの回答や折り合いのつけ方が、ジョニーの前では崩れてしまうというところを絶妙に表現していたように思えるのです。

彼女に付きまとうジャーナリスト・レモンも、小人症のピーター・ディンクレイジを配置することによって、同じくマイノリティとして傷ついてきたであろう人間の微細な感情の揺れ動きを感じることができました。
この映画のラストショットが彼なのも、あきらかに意図したものではないか?と思うのです。

ペネロピ自身が、豚の鼻と耳を持っていようとも、閉じ込められた世界から飛び出し、自分でつかみ取った居場所の中で、

"今の自分が好きなんだ"

と言うシーンは、コンプレックスもひっくるめて、それでも今の自分を受け入れたい!という考え方。
それは、この映画が描く価値基準が、

人の価値は、他人で測るものではなく、価値は自分の中にあって、それを認めるかどうかが最も大切なんだ

という考え方を表しているようで、今の僕にとっては強く共感できるし、とても美しく感じました。
人のせいにしないって、本当にすごいと思う。

"それでも、あなたがいい!"

そんなディズニールネッサンス的な形は、そこには夢も"Someday prince will come"もあるけれど、僕はもっと成熟した考え方の方が好き。

"そういう部分があるけれど、僕はいいと思うよ"

キラキラに輝くハッピーエンドより、暖かく包み込むハッピーエンドの方が、ずっと大人で美しくて甘く好き。

そこで流れる、"Sigur RosのHoppipolla"

"自分の殻を破らなきゃ。大きく息をして。
鼻血が出たって、僕は絶対立ち上がるんだ。"

全てを受け入れて、それでも自分の力で立ち上がろうとしたものだけに与えられる、まるで祝福のような曲。
ここで、僕は涙を流しました。

お父さん、お母さん、僕は大きくなりました。

(保守的な母親の像とかは、あからさますぎて、深みもへったくれもないし、めちゃくちゃイラつくので、そこは注意なんですけどね。)


で、最後の最後に、映画の内容抜きにしてアレなんですけど...

この映画の名シーンは、
僕ことマカヴォイが、ペネロピの部屋で
"You're My Sunshine"を超絶的素敵な笑顔を振りまきながら、弾きまくるところなんですよね。こればっかりは、言わしていただきますが、めちゃくちゃカッコいいから。

僕もいつか、誰かのためにこの歌を歌いたい!

"Someday prince will come"

ではなく、

"Someday I will sing this song"

そんな気持ちですな。
Torichock

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