オトマイム

孤独な声のオトマイムのレビュー・感想・評価

孤独な声(1978年製作の映画)
4.3
一度みたら忘れられない独特の色彩感覚。琥珀色/毒を含むような緑青の色/深い夜を吸いこんだ水の色/色素がとんだ森の色。その印象はどれも強烈で、色調は豊かだけれど震えるほどつめたい。カラーとモノクロの混合はカラーフィルムが不足したからという話もあるがいずれにせよ、時折挟みこまれる別次元の映像や意図的なピントのずれ等、映像表現は才走っておりその力強さ・みずみずしさにハッとさせられる。これが卒業制作とは…

また、音への感覚もとても鋭いと思った。音が溢れているわけではない、むしろ貧しい暮らしやシンプルな風景の中できわだつ自然の音、室内でたてる小さな音…たとえばかたいものをこりこり噛む音、すくない台詞の声。フィルムの損傷によるノイズまでが不思議に心地よかった。





人は死についてずっと考えていると死と親密になりちょっと手を繋いでみたくなるのだろうか。「どうしても死を体験してみたい」という言葉には胸をつかれた。こちら側に戻れる根拠のない自信があったのか、それが心地よければそのまま向こう側にいるのもまたよしと思ったのか。恐ろしいほどの虚無と孤独が押し寄せ心を乱される。美(映像)と苦悩(内容)が錯綜するにつれ胸の奥に重い澱がどんどん沈んでいく。それに抵抗するためか私は始終、すこし緊張していたと思う。映画館の外に出たらなぜか無性に甘いものが食べたくなった。