孤独な声の作品情報・感想・評価

孤独な声1978年製作の映画)

MAN'S LONELY VOICE

製作国:

上映時間:86分

ジャンル:

3.8

「孤独な声」に投稿された感想・評価

Jeffrey

Jeffreyの感想・評価

4.0
「孤独な声」

冒頭、ロシアの片田舎の村。青年ニキータ、帰還、ロシア革命後、国内戦争、赤軍兵士、人間的感情、幼なじみ、結婚、愛情。今、細やかな幸せに耐えられない青年が放浪の旅へ出る…本作は孤高の作家ソクーロフと言われるロシアの監督アレクサンドル・ソクーロフの長編デビュー作で、この度DVDボックスをフル購入して9本連続で鑑賞したが、デビュー作から圧倒的な傑作を誇る。他と比較し得ない強烈な個性とはこの事を指すのかと…思い知らされた。これが大学の卒業制作で作ったのだから、才能の開花の早さは周知の通りである。本作は87年モスクワ映画祭アンドレイ・タルコフスキー記念特別賞、ロカルノ映画祭銅賞受賞している。

まず、この作品は長らく封印されており、1986年から始まるソ連のペレストロイカの中で公開され、彼の名前が世界的に有名になっていく。そして、もともと映画大学の卒業制作のために作られたいたが、映画当局の幹部から作品の廃棄が命令され、ネガやプリントが密かに保存されていたと言うことも周知の通りである。そうした中、この作品を救うためにタルコフスキーが力強く頑張っていたと言う話もよく聞く。そして、地下上映活動などによって人の目に触れられてきたそうだ。そしてようやく87年に公開された。

そして残念ながらタルコフスキーがパリで亡くなった86年以降に公開されたこの作品を改めて見ることができなかったことにより、この作品のエンドクレジットにはこの映画に協力してくれた人たちの名前が献辞してる。それにしても公開を禁じられたソクーロフの映画は合わせて10本あるそうだが、かなり当時ほとんどの作品に規制がかかったらしい。タルコフスキーの「ストーカー」も色々と災難にあっていたそうだ。

この作品の下ネタになっているプラトーノフの短編"ポトゥダニ川"を原作にしているらしいが、この作品は確か難解なスタイルで当時、宗教的精神構造が入っているため非難の的になったはず(違ったらごめん)。



さて、物語は内戦が終結し、すっかり荒廃した故郷の村に帰還した赤軍兵士二キータ。夏の終わり草原を歩く青年は1917年のロシア十月革命の後に国内に戻ってくる。そして幼なじみのリューバと言う女性と結婚する。やがて幸せが辛くなってしまい、彼は家出をしてしまう…と簡単に説明するとこんな感じで、もっと色々と物語は展開するのだが、ネタバレになる為ここまでにしておく。


本作は冒頭から非常に引き込まれる。まず青みがかったフィルム映像でスローモーションに人々が仕事をしている資料映像的なものがゆっくりと音楽と共に流せれる。男たちは何か大きな歯車のようなものを回している。カットは変わり、広々とした高原を歩く1人の青年をロングショットで捉える。彼の名前はニキータ。画面からタイトルロゴが出現し、改めて青年を引きに撮る。

(この時点で、すでに最高のワンシーンである)。

続いて青緑色のフィルム映像から今度は赤みがかった美しい花が咲き誇る小道を歩く青年、カメラは村をとらえる。そこには近代的な建物や歴史的な建築物がそびえ立つ。そしてカメラは青年が目を閉じている表情を少しばかりクローズアップして撮影する。そしてカメラは荒れた荒涼の地を捉える。

青年が夜更けの村の歩道を歩き、家に辿り着く(ここで冒頭の青みがかったフィルムの資料映像的なものが挟まれる)。彼は家の中でベッドに寝込む1人の男性を見つめる。男はゆっくりと起き上がりニキータを見る。そして2人は会話をし始める(男は歳のとった父親である)。続いて物静かな村の自然がなめらかなカメラワークで収められる。青年は軍服のような服を着て、その森の風になびかれながら立ち止まり太陽光を浴びる。

そしてとある女性が彼と会話をする。彼は黙って女性を見つめる。2人は前に会っているようで覚えている?との会話が続く(カメラは男女のクローズアップを交互に捉える)。 2人は左右並木に挟まれた小道を散歩する。女性は半年前に母をなくしたとニキータに語る(この時、女性は鍵のかかったボロ小屋の鍵を開けている)。

カットは変わり、廃墟じみたボロボロの一軒家をフレーム内に収める(この家は彼女の家である)。その家の中には先程の男女2人がベッドと椅子に座って会話をしている(ここで紫色のスチール写真が映されるたくさんの女性が写っている)。彼女は弟がお腹を空いていると彼に伝える。そして食べ物のことを考えたくないから眠ると言い、そこのベッドに横たわる。その間も青年は無言である。

そして今度は紫色のスチール写真でたくさんの男性(子供)が写っている写真や学生写真など様々な写真が画面に映り込む)。画面はいちど暗くなり、ニキータの表情を捉えるショットに変わる。部屋の隙間から女性がアルバムをめくっている姿を覗く。(ここで家族の回想シーンが映される)。そして街の夕暮れどきのカット割りを数回し、小動物、風になびく草木、池に浮く草花、土の上に座る老人を捉えるショットなどが映される。

そして2人の若い男女は結婚を物静かな廃墟のような教会であっけなく承認される。 2人は家に帰り、女性が笑いながらニキータの髪を少し切る。彼は微笑む。そして彼女の手を握りしめる(2人はベッドに座っている)。そして女性は食事を用意すると立ち上がり、フレームから一旦消える。そして机に料理を持ってきて、2人はテーブルで食事をする。そして寝る。

そして冒頭の青みがかったスローな資料映像が映し出される。そして湖に行って小舟に乗る男性2人の会話を固定ショットで捉える…やがて、青年は幸せが重荷に思えてしまい家出をしてしまう…と簡単に説明するとこんな感じで、非常に物静かな作品だ。

この映画少し引っかかりのだが、主人公の青年はロシア革命後の反革命勢力との国内戦に赤軍兵士として参加し、戦争が終了したとともに村に帰ってくれば普通は英雄的に出迎えられるのだが、そういったシークエンスは一切ない。ただひたすら幼なじみの女性と再会して結婚する話を捉え、後に幸せと言うものが重荷になってしまった青年の弱い心を映す。

他にもその幼なじみの女性が冬のシーンで半袖を着ているのもツッコミどころの1つであるが、何か意図的なことがあるのだろう。物語自体は夏の終わりに始まり翌年の春に終わると言う設定が映像から見てとれるし、リアリズムを強調させるために彼女を太陽に見立てているのかもしれないもしかしたら…。


いゃ〜ただ村に雨が降っているだけなのに、ただ雪が積もっているだけなのにこんなに美しくフレーム作りができるのは天才的だ。特に色彩のコントラストの調整が非常に独特で独自性を表現していて素晴らしい。それにラストの演出によってこのタイトルの意味がわかるのもかなりスッキリする。

ところでニキータ役を演じたアンドレイ・ペトローヴィチ・グラードフと言う俳優が非常に良かった。あの絶妙な悲しそうな表情や、にこやかな表情がすごく感情移入できる。特に彼の横顔がすごく映像としては絵になっていてよかった。それと音楽を担当したK・ペンデレツキイとO・ヌッスィーオとA・ヴルドフの既曲が良い。

まだ未見の方がお勧めです。80分代として尺も短いので見やすいと思う。
knkne

knkneの感想・評価

4.0
ささやかな幸せにさえ耐えられぬ弱い心は青ざめている。陽光の眩さやストーブに焚かれた橙色が男の影や抱える闇をいっそう強くさせる。リューバとニキータの精神的な明暗がはっきりしているこのシーンは特に象徴的である。
男の表情には覇気は感じられず、歪なまま揺らぐ心は水面に浮かぶ。死んだように生きている彼はとうとう臨死体験に興味を持ち始める。
自らの望んだ死は誰かの望まない死も誘発する。
その逆である生にも同じことが言える。
「君との幸せを怖がらない」と孤独だった声は連帯性を持ち始める。深く深く沈み、沈みきった底にたどり着いたからこそ見える僅かな希望。
タルコフスキーのような画面作り。自然と共に奥行きを感じるショットが連続したかと思えばイメージや人間の記憶を集合写真や労働者の映像などによるもので表現する。物語の唐突な展開も挙げられる。ストーリー全体は特筆すべき点はないが映像表現、というよりも映像を介しての新たな言語を提示されたようだった。
R

Rの感想・評価

4.1
タルコフスキー作品でもよく見られる人影のない恐ろしいほど広い草原。
社会体制が違う国の僕らやから思うのか、とても空想的神話的に思える登場人物達の在り方である。
でもこの物語はロシア革命後の混乱を経てソビエトが成立した後頃の疲弊した人々が描かれているのであり、映画の作られた頃のソクーロフ自身からするとわずか50年前の同じ体制のリアルな自国の事である。
この作品で描かれる清貧というあり様を監督自身がどれほど価値のある事と考えていたかはよくわからぬ。批判すべき体制の犠牲となった成れの果てと考えているのか、少なくとも下々の者達は清らかで正しいと言いたいのか、芸術的に清貧や孤独を描かれるべき価値ある事として捉えているのか、、、
甲冑

甲冑の感想・評価

4.0
1978年に全ソ国立映画大学の卒業制作として作られた処女作だそうだがレベルは高い。先日観た長編2作目『痛ましき無関心』同様完全に垢抜けておりこの2作の振り幅もまた面白い。今作は大学や映画当局から作品廃棄の命令が下され(確かに作中、赤軍や革命が良いように扱われているとは思えない)何とか守り抜いて今観れているという事でタルコフスキーの協力が大きかった様子。それは映画自体の内容に関しても影響を感じた。個人的には『鏡』に似た感じを覚えた。あそこまでの時間軸の振れ幅はないが、突如オーバーラップする感じや、全然説明のないまま連想ゲームのように映像が切り替わるあの感じ。これは検閲逃れもあって簡単に分からせない為にしているのか分からないが、この時期のソ連映画ならではの良さを感じる。緑、風、水、光などぼ色彩も『鏡』を彷彿とさせ美しい。
kappadokia

kappadokiaの感想・評価

4.0

このレビューはネタバレを含みます

生産的な行動って何だろう?って考えた
劇中でニキータが唯一していた生産的な行動といえば薪をくべることくらい
それを新婚初夜は「わたしは卒業して今日は結婚式だからもうしなくていい」と言われる
ニキータどころか登場人物全員働いていないし、そこに労働者の映像が何度も入ってきて断絶してる
冒頭でニキータはどういう気持ちで窓を覗いていたのだろう?
一度みたら忘れられない独特の色彩感覚。琥珀色/毒を含むような緑青の色/深い夜を吸いこんだ水の色/色素がとんだ森の色。その印象はどれも強烈で、色調は豊かだけれど震えるほどつめたい。カラーとモノクロの混合はカラーフィルムが不足したからという話もあるがいずれにせよ、時折挟みこまれる別次元の映像や意図的なピントのずれ等、映像表現は才走っておりその力強さ・みずみずしさにハッとさせられる。これが卒業制作とは…

また、音への感覚もとても鋭いと思った。音が溢れているわけではない、むしろ貧しい暮らしやシンプルな風景の中できわだつ自然の音、室内でたてる小さな音…たとえばかたいものをこりこり噛む音、すくない台詞の声。フィルムの損傷によるノイズまでが不思議に心地よかった。





人は死についてずっと考えていると死と親密になりちょっと手を繋いでみたくなるのだろうか。「どうしても死を体験してみたい」という言葉には胸をつかれた。こちら側に戻れる根拠のない自信があったのか、それが心地よければそのまま向こう側にいるのもまたよしと思ったのか。恐ろしいほどの虚無と孤独が押し寄せ心を乱される。美(映像)と苦悩(内容)が錯綜するにつれ胸の奥に重い澱がどんどん沈んでいく。それに抵抗するためか私は始終、すこし緊張していたと思う。映画館の外に出たらなぜか無性に甘いものが食べたくなった。
大越

大越の感想・評価

-
ヴェーラ→ユーロを2分で乗り継ぐという荒業を成功させたので満足。

タルコフスキー1本も観てなくてごめんなさい。
tokio

tokioの感想・評価

3.5
Rec.
❶19.02.24,ユーロスペース(35mm)/ソクーロフ特集
miyagi

miyagiの感想・評価

2.5
ユーロスペース のソクーロフ特集より。
ロシア(旧ソ連)の映画は難解というイメージだったが、まさに難解極まりない作品だった。
今作が大学の卒業制作で作られたもので、政府によって上映禁止にされ、しばらく陽の目を見なかったという経緯があるよう。

そもそも歴史的なことや、制作背景にそこまで興味がないので、単純に作品としてみた上でいうと、ストーリーがほとんど展開せず、物凄く退屈だった。
起きて間もないのに何度か落ちそうになるぐらい。
フィルムなのに、フレームをコマ落ちさせたり、HS的な効果で画を見せていたのが面白い。
あとはどういう撮影、現像していたのかわからないが、モノクロの色調だけでもシーンによって全然トーンが違ったのは驚いた。
メタルみたいな冷たい色表現が、当時の労働者の貧しい暮らしや、主人公の冷えた心を表していたのかもしれない。

にしても難しい。


2019劇場鑑賞36本目
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