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ゾディアックのRenのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.5
【ゾディアック事件】1968年から1974年にかけて行われた殺人事件。ゾディアックと名乗る犯人が犯行後に警察やマスコミへ犯行声明文を送りつけていたことから、「劇場型犯罪」として知られる。アメリカで最も有名な未解決事件の一つであり、現在も継続捜査中である。
(Wikipediaより)

実在の事件を元にしたストーリーを、焦らず時間をかけて着実に描いていく。『殺人の追憶』のフォロワー的側面は十分にあると思うけど、今作をポン・ジュノがオールタイムベストに選出している点などに因果の一端が垣間見えて面白い(彼は「完璧なサスペンス」として、黒沢清の『CURE キュア』と今作を度々オールタイムベストに挙げている)。

実際の未解決事件なので明確な答えもミステリー的な謎解きのカタルシスも無く、ただその捜査過程における混乱や苦悩や執念のみがドラマになっている。150分超えの長尺だが、少なくともこの上映時間に見合うだけの人間ドラマ、心情・心理的変化は描かれていたと思った。
ただ何十年間を圧縮した脚本なので、数分毎に「○週間後/○ヶ月後/○年後」とテロップが入る編集が少し忙しなくのめり込みづらいとも感じた。もちろん、こんなに時間経ったのに何も解決してないじゃん、という疲弊と絶望の演出なのだけど。

個人的には、100分を経過してからの後半パートが非常に面白く前のめりで観られて。警察とマスコミ=世間 を多角度から映した群像劇的要素が強かった前半からぐっと焦点が絞られ、ここで主人公が確定する。
目的に固執しすぎた結果狂気に近い執念で追及を続ける人間を体現したジェイク・ギレンホール。三白眼で突き進む彼自身の恐怖みたいなものは後の『ナイトクローラー』に繋がっていく。

意外だったのは、ゾディアックの犯罪シーンそのものはそこまでホラーではないこと。冒頭の殺人は軽快な音楽が流れ、第二の犯行は快晴の白昼に行われる(画面の暗い場面が多い本編において逆に浮いている)。一方でラストの家でのシークエンスは緊迫感を高めた演出になっている。未知の凶悪事件の核心に迫っていけばいくほどに、その恐怖に触れるように演出もホラーの色を高めていくのが良かった。

『セブン』や『ファイト・クラブ』『ゴーン・ガール』など、物語を構造ごとひっくり返すサプライズを含んだフィンチャー作品が好きな自分としては、これが彼の最高傑作とは思わないけど、会話主体で飽きさせず引っ張る脚本とよく分からない不気味さで楽しめる良質なサスペンスだと思う。
ミステリーではなく、ゾディアックを不在の中心として据えた人間ドラマだった。
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