Kuuta

ゾディアックのKuutaのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.7
劇的なサスペンスではなく、殺人鬼と人生をかけて戦い続けた男の話。家庭や仕事を失っていく様子をあまりドラマチックに描かないのがフィンチャー流?とんでもない話なのに淡々と進む雰囲気はベンジャミンバトンにも受け継がれている。多少尻切れとんぼになっても犯人について一応の結論を出すのは制作陣の意地なんだろう。予告は暗号謎解きであおってたから、ミステリーを期待した人はさぞがっかりしただろうと思った。

冒頭の殺人での明るい音楽は祭りの始まり感があって最高。湖畔のナイフめった刺しも痛々しくてさすがフィンチャー。

無関係な事件までもが怪しく見えてくる状況はまさに恐怖だと思う。長さは気にならなかったし、終盤の真犯人に迫ろうとするひりひりした感じは良かった。

劇中で公開されたダーティハリーに刑事が憤慨して出て行く。超法規的なキャラハンとは違って、管轄の違いや物的証拠の少なさから、怪しい被疑者を逮捕できない。ゾディアックを娯楽にしたダーティハリーとは対照的だなと思った(フィンチャーは「ダーティハリーは被害者に失礼だ」と言っているらしい)。

中盤の捜査シーンがちょっと眠かった。いろいろな人を調べたあげく真相は闇の中。リーの職場での取り調べ以外にもう一つくらい絵的な見せ場が欲しかった。そこで中だるみを感じたのと、事件に取り憑かれてしまったグレイスミス(ジェイク・ギレンホール)の心境をもっと掘り下げて欲しかった。
歳月とともに人は何かを諦めたり、心はずっと捕らわれているのに何もできないまま周りの物を失ったりする。そういう人生の寓話でもあるんだろうし、例えばその諦観や悲しさをグレイスミス夫妻のすれ違いに絡めたりしたらもっと良かったんじゃなかろうか。72点。
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