こたつむり

ゾディアックのこたつむりのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.5
繰り返される殺人。暗号で示した声明文。
動機が不明の中、先行する猟奇的な印象。
そして、未だに解決していないという事実。
それが、全米を震撼させたゾディアック事件。

実際に起きた事件を描いた作品としては。
十二分に良作の範疇に入ります。観客を悩ませない時系列順の展開。感傷的な部分を削いだ演出。淡々としながらも不穏な空気を漂わせる映像。手に汗握る殺人の瞬間。事件の詳細を知らなければ、緊迫感溢れる追体験を味わうことが出来ると思います。

また、本作の主人公を演じるのは。
ジェイク・ギレンホール。新聞社に勤める風刺漫画家という立場でありながら、異常なまでに事件に拘る姿は理解の範疇を超えていて見事な存在感。そして、彼と相対する刑事を演じるマーク・ラファロも良い雰囲気です。この二人の存在感を上手く作品に絡めているのは、さすがデヴィッド・フィンチャー監督と言えましょう。

ただ、凡百な監督さんならば及第点でも。
猟奇的な犯罪を描いた傑作『セブン』を作り出した監督さんですからね。生半可な作品では物足りなく感じてしまうのです。しかも、アメリカ犯罪史上に残る大事件ですからね。淡々とした展開は本当に勿体無いと感じてしまうのです。

また、本作の原作を記したのが。
警察関係者でないからか、警察の描写が少ないのも残念なところ。未解決のまま…ということは、どこかに原因があるはずなのですが、それは犯人が狡知で証拠隠滅が完璧だったのか、それとも捜査側に瑕疵があったのか。その辺りが曖昧なのですね。確かに関係者に配慮する必要はあるでしょうが、描くべき部分は描いてもらいたいと思うのです。

まあ、そんなわけで。
監督さんの実力を知っているからこそ、高望みをしてしまうのですが「ゾディアック事件」を知るには良い入門書的な作品だと思います。ネットが発達した現代ならば、不明瞭な部分は後から補完できますからね。鑑賞後に“知の海”で耽溺する時間こそが…本作の醍醐味なのかも。

それにしても。
新聞記者を演じるロバート・ダウニー・Jrが劇中で色々と文句を言ったり、適当なことを言ったりするたびに“トニー・スターク”を連想してしまいました。いつになったら“アイアンマン”に変身してゾディアックを倒すのだろう…なんて不謹慎なことを考えてしまいましたよ。
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