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特別な一日のbirichinaのレビュー・感想・評価

特別な一日(1977年製作の映画)
5.0
以前見た時はファシズムを時代背景とした暗いメロドラマと勘違いしたが、実は社会派の要素が盛りだくさんだった。「特別な一日」という含みあるタイトルの意味がようやく分かった。やっぱりE・スコラの脚本は手が込んでいる。

アントニエッタ(S・ローレン)は子だくさんの主婦。ファシズム政権は多産を奨励していて7人目が生まれると報奨金が出た。軍人の夫はもちろん彼女もムッソリーニ信者なので、夫婦にはすでに6人子どもがいて7人目も当然産むつもり。だか、作品を通して夫は教養、品位、妻への敬意に欠けるイヤな奴に描かれている。
一方、向かいの部屋に住むガブリエーレ(マストロヤンニ)は反ファシストのラジオアナウンサーでゲイ(若い子好きのゲイと言っている)。ファシズム政権は男尊女卑、そして男とは夫、父親、兵士を指し、独身男性に独身税を課していた。また、危険分子を隔離する政策をとっていて、ガブリエーレもラジオの仕事を追われ(同じくゲイの友人から譲り受けた宛名書きのバイトでしのいでいる)サルデーニャ島に島流しになることが決まっていて、この日(ヒットラーがローマを訪問した日=特別な一日)は当局から迎えが来ることになっていた。
思想的に真逆の2人だが、社会や夫から虐げられているという意味では似た者同士なので共鳴する部分があった。そんな2人がひょんなきっかけで言葉を交わし、アントニエッタはすぐに夫とは正反対の彼が好きになる。そしてガブリエーレも性的な愛とは別の愛を彼女に感じる。2人は肉体的にも愛し合い“特別な一日”を過ごす。(ガブは無理してる感じだったけど。)
管理人の女がかけているラジオ「ヒットラー ローマ訪問」実況中継が常に聞こえていて緊張感がある。この管理人が曲者で、2人の行動に目を光らせていて、パレード見物から戻ったアントニエッタの夫に「お宅にとっても特別な一日でしたね」と意味深な言葉をかけるシーンはクスッと笑える。

<誤解していたこと>
2人が住んでいるマンションは、わりと高級なマンションだそう。当時、家に浴室があるのはかなり贅沢だったそうだ。アントニエッタ家は子どもの数に対して部屋が足りない、彼女の靴も穴が開いていた、電気のカサも壊れたまま、彼女自身が疲れた主婦に見えたので、かなり庶民的な家庭かと思っていた。にしては彼女のイヤリングと来客用食器が高価に見えたが。

<汚れ役に挑戦した2人>
マストロヤンニは色男役続きで、役者として他の役ができなくなることに不安を感じていて、それを払拭するためにゲイという当時としてはかなりハードな役を進んで受けたそうだ。
妖艶な役が多かったローレンも実年齢よりふけた主婦役をノーメークに近い姿で演じ、これまた役のはばを広げたと言われているそうだ。

<当時の社会が分かって楽しめたシーン>
・冒頭、マンションの住人たちがパレードを見に行くためにぞろぞろ出てくるシーンでは、ファシズム時代にあった年齢別の少年団(というだろうか?)の制服や大学の旗などが見られる。
・ローレンの息子が帽子のポンポン(ポンポン付きの黒帽はファシスト少年団の必須アイテム)をつけてもらうシーンでは、息子たちが「ポンポン」と言うと父親が「ポンポンでなくnappaと言え」と注意しているのは、ファシズム政権が外国語の使用を禁じていたから。(それでサンドイッチもtramezzinoと言うようになった。)
・マストロヤンニがルンバの練習をする時にかける曲は1932年に流行していた曲だそう。♪aranchi~♪

最後に…九官鳥君、「Lascialo stare!」は文法間違ってるけどモノマネだからしかたないね(笑)
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