アキラナウェイ

ジャーヘッドのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ジャーヘッド(2005年製作の映画)
3.5
戦わない、戦争映画。

これは全く予想していなかった。

「アメリカン・ビューティー」「1917 命をかけた伝令」のサム・メンデス監督の拘りが光る。

実在するアメリカ海兵隊員、アンソニー・スウォフォードの湾岸戦争体験記が原作。

1988年に18歳で海兵隊に志願した青年アンソニー・スウォフォード(ジェイク・ギレンホール)。過酷な訓練を耐え抜き、1990年の夏、湾岸戦争の為サウジアラビアへと派遣された。アンソニー含む、使命感と闘志に燃える若き海兵隊員達を待っていたのは、果てしない砂漠と終わりのない訓練、そしてひたすら待機する日々だった—— 。

鬼軍曹による罵声が飛び交う中での訓練は、まるで「フルメタル・ジャケット」。劇中、彼らは「地獄の黙示録」の代名詞とも言える"ワルキューレの騎行"を聴いて歓喜する。また、一同が集まって「ディア・ハンター」のビデオを観るシーンも。

数々の戦争映画のオマージュを随所に散りばめながら、これもまた戦争によりイカレちまった男達の物語だが、どうも趣きが違う。

待てど暮らせど、戦争は始まらない。

砂漠の中でただ無為に時間が過ぎていくだけ。
訓練をしたり、バカ騒ぎをしたり。

やがて戦争が始まり、真っ白に続く砂漠から一転、油田に火が放たれ、漆黒の闇に立ち登る真っ赤な火柱。それはまさに地獄絵図。

しかし、それでも男は呟く。
一発も撃たなかったと。

そう、彼らは誰も殺さなかった。

戦争の終焉を喜ぶ兵士達。
酒を飲み、歌い、踊り、
宙に向けて撃たれた銃弾。

堪らない虚しさが、観ているこちらの心にも侵食してくる。

何だったのか、これは—— ?

これは全く新たな切り口の反戦映画。

彼らがそうであったように、観ている方も退屈に感じてしまうのが些か残念だけど、メッセージ性は強い。

真っ白い砂漠
真っ暗な闇夜
真っ赤な火柱

究極のコントラストで描く映像美にも見惚れてしまう。

ギョロ目で虚しさを訴えかけてくるギレホの演技。終盤のぶちギレ演技が印象的なピーター・サースガード。キレまくる鬼軍曹役にはジェイミー・フォックス。キャストも良き。

アメリカは、如何に多くの国民の人生を台無しにしても、やれ愛国だ、世界平和だと戦争を正当化し、新たな若者達を生と死の最前線へと送り込む。

"ジャーヘッド"とは、空っぽの瓶を表す、米海兵隊員の蔑称。

頭を空っぽにしなければ、生きていけない。そして心を空っぽにさせられて、還ってくる。

こんな虚しい事は、やはり止めにしなければね。