ちろる

ひめゆりの塔のちろるのレビュー・感想・評価

ひめゆりの塔(1953年製作の映画)
3.6
あの夏、多くの乙女達の魂はどう消えていったのだろうか?何を訴えているのだろうか?

ひめゆりの部隊について描かれるの 映像作品は数多くあるが、私が観たことがあるのは吉永小百合さん主演「あゝひめゆりの塔」のみ。
あれもかなり古かったがあれよりさらに15年も前に最初の『ひめゆりの塔』がここに作られていた。

全く異なるストーリーなので、比べる事は野暮だが、まだ戦後まもない頃の作品であり、演じる俳優たちもまた戦争の惨状を目の当たりにした人たちばかりであるためか、その描き方や演じ方にも生々しさを感じる。

作品は倒産の危機にあった東映を救うほどの大ヒットを飛ばし、今井正監督はのちにオリジナルリメイクを作るほどこの作品には並々ならぬ想いがあったのだろう。

ドラマティックにストーリーが展開するわけではなく、セミ・ドキュメンタリータッチの群像劇である本作は多くの登場人物にスポットが当たっていて、いわばひめゆり部隊の全ての少女たちが主役である。

本作撮影時は、沖縄はまだ米軍の占領下故に沖縄での撮影ができず、通信手段も限られ、沖縄の人々への取材も少ないものだったと思われる。
そのため殆どが想像で作られているが、何というリアリティ。

少女たちのキャッキャッした明るい笑い声が一つ、また一つと消えていき、彼女達の身につけている服もボロボロになり、失明したり、動けなくなったりと次第に追い詰められていく。

鑑賞していてもどんどんと身につまされていく本作は苦しみを伴うが、監督が拾い集めた「ひめゆりの乙女達」の魂の声がこうして時代を超えても忘れてはならない。

そして、こうした生々しい戦争を見せてくれる作品を繋いでいく事が、戦争を起こさない未来につながっていくのだろう。
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