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栄光のランナー 1936ベルリンのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
背負わされてるモノがデカすぎ。
言いたいこと見せたい要素詰め込みすぎ。


たぶんリオ・オリンピックに合わせて公開。
実在した1大会で4つもメダルを獲得したジェシー・オーエンスの物語。

貧しい家庭で育ちながらも、陸上競技の才能に恵まれたジェシー・オーエンスは大学進学後、かつてはオリンピックを目指した元陸上選手でコーチのラリー・スナイダーと出会う。
二人の人種を超えた友情と努力の結果、アメリカ国内大会で次々と記録更新し、一躍アメリカを代表する陸上選手へと成長する。
一方その頃、ベルリンオリンピックをプロパガンダの絶好の機会と考えるナチスに、アメリカ国内は参加の是非を巡って真っ二つに紛糾。参加表明はユダヤ人迫害の容認か否か、スポーツに政治を持ち込むべきでないか。
結局、僅差でアメリカの参加が決まるものの、ナチスのユダヤ人迫害と同様アメリカ国内でも人種差別が公然のものだったわけで、黒人団体からは全ての人種差別への抗議として不参加を依頼される。仮に、出場して負けることは白人種の優位性・ナチスの優生主義の正当化として世界に示されてしまう。かくしてジェシー・オーエンスは迫害されてる人種とアメリカ国民の代表として、ぜっっっっったい負けられないレースに挑むことになる。

原題「RACE」は、競技としてのレースと人種・民族のダブルミーン。
ただでさえ難しい時代に、黒人として生まれた主人公ジェシーの苦難が描かれ、図らずも国と人種を代表してナチス・ヒトラーの鼻を明かす役割を担うことになった重圧が綿密に描かれる。
自分ならいくら競技に自信があったとしても、選手村からスタジアムまでの道々、ヘンゼルとグレーテルなみに点々と小ゲロ吐いて残しかねません。

様々なしがらみ・重圧・人種差別に雁字搦めになるなか
「(100mを走る)10秒だけ、ボクは自由になれる」
と語るジェシー・オーエンスの名言が光る。

トップアスリート同士のギリギリの攻防の中、トップ同士だからわかるお互い凄さ。肌の色を超えて芽生える友情物語だったり、
弟子を救うことで師匠もまた救われるベストキッド徒弟モノもあり。
さらに今日まで続くオリンピック開催にまつわる黒い話から、スポーツドキュメントとして名高い記録映画「民族の祭典」の制作秘話。ゲッペルスとレニ・リーフェンシュタールの対立にまで大きく時間を使っている。
ことほどさように、レイシズムやヘイトクライム、スポーツや芸術に政治を持ち込むことへの警鐘etc……盛り込んでるものが多すぎるせいか、肝心の競技シーンがなんともアッサリ。結果知って見てるとはいえ、見せ方に工夫がなく、10秒で100mを走るシーンが10秒かからず終わってしまう。なので、プレーで世界を納得させたジェシーの偉業のキモが抜けて見えてしまって、なんかこう「そうじゃないだろう感」が残る。

手塚治虫「アドルフに告ぐ」で描かれる通り、日本人選手が多く陸上競技で活躍した大会でもあり、ジェシーが金メダルを獲った走り幅跳びの表彰台に、ちゃんと銅メダルの田島直人がいました。
あとコーチが探してるドイツの靴屋ダスラーは、のちのアディダス(またはプーマ)かな?と考えるのも面白かったです。
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