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哀れなるものたちのsomaddesignのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
19世紀末のロンドン。自ら命を絶った若き女性は、天才外科医ゴッドウィンによって胎児の脳を移植され奇跡的に蘇生しベラと名付けられる。ゴッドウィンの庇護のもと日に日に回復するベラだったが、「世界を自分の目で見たい」という強い欲望に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われるまま、ヨーロッパ横断の旅に出る。急速に、貪欲に世界を吸収していくベラ。やがて時代の偏見から解き放たれ、自分の力で真の自由と平等とを見つけていく。そんな中、ある報せを受け取ったベラは帰郷を決意するのだが──。

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原題「Poor Things」。アラスター・グレイによる1992年に上梓させれた同名小説の映画化。ヨルゴス・ランティモス監督とトニー・マクナマラ脚本のタッグは「女王陛下のお気に入り」以来二度目。エマ・ストーンも「女王陛下〜」から引き続き登板。

原作未読。予備知識ゼロで見に行ったら、思いの外R18な描写が多くて驚いた。

女性版「フランケンシュタインの怪物」みたいな冒頭。マッドサイエンティストに作られた人造人間の悲劇かと思いきや、ベラの成長に伴って世界の残酷さや理不尽さを知る物語だった。
幾重にもレイヤーが重なった作りなので、どの層を見たか、見た人の立場によって見え方がいくつも変わりそう。
一応ハッピーエンドだけど、あの小さな楽園の外には変わらず父権バリバリかつ封建社会が広がってるわけで、薄皮一枚隔てた先はまだ地獄って現実はむしろ残酷なアンハッピーエンドにも思える。ビターな後味がいい。ヨルゴス・ランティモス映画っぽい。原作との違いが気になるので、原作も読まねば!


エマ・ストーンとマーク・ラファロのベッドシーン。性的ないやらしさが全然なくて、スポーティですらある。相撲のぶつかり稽古を見てるみたいで愉快。ベラの自由や自立・成長を象徴するシーンだけど、ダンカンへの愛が全くないのが良くて、ただの棒扱い。男女逆転の様相っぽくもある。

「熱烈ジャンプ」の件。当初ベラが幼児語を交えて話すので、性行為のことも幼児語で話す。英語でなんて表現してるのか確認できなかったけど、存在しない幼児語をどうにか翻訳してる面白味。「熱烈」が幼児語としてどうかと思うし、響きが若干ダサいけど名訳だと思う(下品にならずに子供っぽさだけ漂う感じ)

マーク・ラファロ演じたダンカンのナイス・クズ。理性的で人格者役の多いマーク・ラファロのフィルモグラフィーからすれば、だいぶ逸脱した情けないキャラクターがおもろい。
先進的な考えの持ち主で、時代に縛られない自由奔放な女性を推奨しながらも、ベラが自分の支配を超えて自由を謳歌しようとするのは許さない。結局ゴドウィンとしてること一緒な卑近なマチズモっぷり。ある意味正直な人間(特に快楽に対して)ではあるものの、欺瞞と矛盾・理想と本音ゴチャ混ぜな醜悪でどこにでもいる「ザ・人間」を代表するキャラに思えた。

名優ウィリアム・デフォーが演じたゴドウィン。強烈な見た目以上に父権でベラやマックスを束縛し振り回す。根っこには彼自身が父親から受けていた束縛(ほぼ虐待)があって、ベラの成長と比例してゴッドもまた視野を広げる物語になってる。ベラへの執着や束縛が解けるのと同じく自縄自縛の鎖を解く。ほとんど内面が窺い知れないキャラクターながら、微細な変化を繊細に演じ分けるサスガの名優っぷり。(ゴドウィンは去勢された人だし、ベラの脳は胎児のそれ。胎児の性別が明らかにされてないから、単純に父権と抑圧された女性の構図で読み解くのもレイヤー違いに思える。いや、そもそも脳に性別はあるのか🤔❓)


フェリシティを演じたマーガレット・クアリー。Netflix版「Death Note」のミア・サットン役で俺にお馴染み。整った顔立ちや印象的な目、なんだか見覚えあるなーと思ったら、アンディ・マクダウェルの娘さんなのね。「ハドソン・ホーク」で何度も見た!こんな大きな娘さんがいらっしゃるとは隔世の感あるわー。


あと、エンドロールの秘宝館センスがバカバカしくって愉快。
鑑賞後、メインビジュアルのポスター(ベラがどアップのやつ)をよく見たら、口紅・アイラインのカラーが劇中の男性陣だった。示唆的。


5本目
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